幸い、このような問題が出てくることを事前に知っていれば、先に準備しておくことである程度対処できます。成長が加速するフェーズに入る目処が立ったら、すぐにでもジェネラリストたちに声をかけ、専門性を極めるよう促しましょう。
スタートアップのカオスな日常に追われる中、人材育成は後回しにされがちかもしれません。ですが、これまでともに歩んできた大切なメンバーたちの成長を支えるほうが、外部から採用するよりも最終的に良い結果が得られるかもしれないのです。
しかし残念ながら、誰もが会社の変化についていけるわけではありません。「ゼロからイチ」のフェーズに適している人もいれば、「1から10」や、「10から100」などの段階で最も能力を発揮できる人もいます。
自分の能力とマッチしていないと感じて、自ら会社を去っていく人もいるでしょう。それがお互いにとって最善の道である場合もあります。
一方で、会社に残り続け、結果的に会社の負担になってしまうケースもあります。社員に会社を辞めてもらう方法については、それ自体が1つの記事として取り上げるべき繊細なトピックですので、今回は触れないでおきます。
重要なのは、会社の成長過程として、このフェーズである程度の離職者が出るのは普通で、むしろ会社にとって望ましいことだということです。
また、この段階を乗り越えるにあたって、実は起業家自身がおそらく究極の「オール80点プレイヤー」であるという厳しい現実を自覚する必要があります。起業家で、特にCEOとして活動してきた人であれば、ほぼ全ての業務をいずれかの時点で経験していると思います。そして基本的にどのタスクも「それなりにできる」程度にこなしていたのではないでしょうか。実際のところ、それで何も問題ありません。
誰よりも成功している起業家やCEOたちを見ればわかりますが、彼らが極めているのは、優秀な「一点特化型90点超プレイヤー」を探し出し、そのスペシャリストたちが専門分野で存分に能力を発揮できるよう十分な裁量を与えることだからです。
しかし、起業家というのは職業柄、はっきりした意見を持っている人が多く、ついなんでも口を出してしまいたくなるものです。スペシャリストのほうがその分野に関してはるかに優れた判断ができるのに、CEOの意見を優先してしまうようなことにならないよう、常に気をつける必要があります。
業務の専門化に伴う苦悩は、スタートアップをスケールしていく中で避けられないものです。そして起業家がこの段階にどう備え、乗り越えていくかは、会社の命運のみならず社員たちの人生にも大きく関わってきます。
会社が順調に成長すればいずれ必ず通る道ですので、その限られた成功を掴める起業家であれば、ぜひ備えておきましょう。
連載:VCのインサイト
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