原油相場の趨勢を大きく左右する「ワッハーブ王国」次の一手

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石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国で構成される「OPECプラス」は6月2日に閣僚級会合を開き、原油の追加増産で合意。会合では7月と8月の増産幅を従来の日量43万2000バレルから同64万8000バレルへと拡大した。

合意は7月から9月まで3カ月間の増産を2カ月で前倒ししようというものだ。「原油価格の高騰は世界経済のスタグフレーション(景気停滞下での物価上昇)を招く」との国際世論が高まるなか、欧州連合(EU)が5月30日にロシア産石油の海上輸送分の禁輸を柱とする第6次対ロ経済制裁で合意。これを受けて需給ひっ迫懸念が台頭したため、欧米諸国からの増産要請に産油国側が応えた面が大きい。

中国・上海で2カ月に及んだ都市封鎖(ロックダウン)が解除されたことで、コロナ禍での需要落ち込みへの不安が後退したのも産油国の背中を押したとみられている。

とはいえ、産油国が供給不足解消へそろりと一歩を踏み出したことへの市場の反応は鈍かった。会合前は「これまでの増産幅を据え置く」と見ていた市場関係者も多く、今回の増産幅の引き上げは予想外の結果ともいえるが、相場の先高観の払拭には至らなかった。それは「(今回の増産では)経済制裁に伴うロシアの生産減を完全に穴埋めはできない」と受け止められているからだ。

OPECプラスの合意にもかかわらず、原油価格は再び、騰勢を強めつつある。指標とされる米ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物の期近物は、6月3日に一時1バレル=120ドル台まで上昇した。同水準まで値上がりしたのは約3カ月ぶりだ。

鍵を握るサウジアラビアの動向


米ホワイトハウスは今回のOPECプラスの決定を歓迎する声明を公表。各国の合意取り付けにおいて、サウジアラビアが果たした役割を強調した。ただ、フランスの新聞「レ・ゼコー」の電子版は「サウジアラビアが米国からの圧力に応じつつ、同時にロシアとの石油同盟も強化している」などとも伝えている。

OPECの報道資料を見ると、7月の増産分64万8000バレルは「OPECプラス」各国に対し、6月の要求生産量に応じて比例配分されている。ロシアに求められる7月の生産量はサウジアラビアと同様、前月比17万バレル増の1083万3000バレルだ。

しかし、ロシアの4月までの生産量は経済制裁に伴う欧米への輸出減などが響き、目標を下回って推移している。国際エネルギー機関(IEA)は5月の月報「オイル・マーケット・リポート」で、2022年後半に同国の生産減少幅が日量約300万バレルに拡大する可能性を指摘する。

一方、経済制裁に伴う需要減で割安になったロシア産石油を中国やインドが「爆買い」していることが報じられているが、市場関係者の間では、ロシアの7月の生産量増の前提を疑問視する見方も勢いを増している。

それでも、ロシアにとって、今回のOPECプラスでの合意は許容できる範囲といえるかもしれない。原油価格の高止まりが続けば、生産減の影響を相殺できるためだ。実際、市場関係者からは「1バレル=125ドルを目指す展開になりそう」(商品取引会社のアナリスト)などと、原油価格の一段高を想定する声が上がる。
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文=松崎泰弘

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