供給の遅れから来る物価上昇圧力が今後弱まっても、賃金インフレからサービス価格の上昇は続くので、消費者物価指数のなかのサービス価格部分は今後も上昇が続くことになると思われ、簡単にインフレ抑制とはならない。
全米では平均時給の上昇率は5%から6%であり、消費者物価指数の上昇には追い付いていない。賃金の上昇が消費者物価指数に追い付くまでには時間がかかるのが常で、消費者としてはインフレの影響を差し引いた実質所得は下がり、実質可処分所得になるとマイナスの状態が継続している。
とはいえ、物価が上がったが賃金が上がらないので使えるお金が減る、それならば消費を控えるとはならないのがアメリカの消費者気質である。当面カードで同じように消費し続け、3月の消費者の信用残高は前年同月比14%増(年率換算)とインフレのしわ寄せがカード残高に表れてきている。
半導体不足もあり、新車の価格上昇もあり、中古車の価格もまた高止まりし、ローン残高を押し上げている。半導体不足は、家電やPCの供給の遅れも引き起こし、価格上昇の要因にもなっている。
通常、卸価格から仕入れ価格、消費者価格へと物価上昇分がボールを回すように転嫁されていくのだが、アメリカの食料品卸大手のタイソンフーズは、上手く卸価格に転嫁できているという。小売大手のウォルマートやターゲットは、輸送費を含む仕入れ価格の上昇分は販売価格にまだ十分に転嫁できておらず、先日のターゲットの決算発表後などは1日で25%も株価が下落することとなった。
ニューヨークではレストランのメニュー価格も上昇し続けている(Spencer Platt / Getty Images)
ということで、消費者はより低額商品の購買にシフトしているようだ。レストランも仕入れ食材価格の上昇分をじんわりと転嫁し、価格を上げてきてはいる。日本でラーメン1杯1000円越えるとニュースにもなるが、ニューヨークでは20ドル、円換算にすると2500円前後の価格をどうするかが、ラーメン店の攻防となっている。
日本から来て30年になるが、トータルではずっとインフレが進みつつ、それでもアメリカの経済は回り発展してきた。ロシアによるウクライナ侵攻もあり、エネルギー価格の安定がいつになるか見通せないなか、FRBは経済が回り過ぎてハイパーインフレにならないように金利を一気に上げた。この経済を抑制するFRBの政策が功を奏して、景気が中立的なところに落ち着くのは早くても来年以降になりそうだ。
連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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