#MeTooムーブメントに乗っかり、社会問題の被害者としてカミングアウト、さらにジャンヌ・ダルクのような宣言をした人間が7億円のチャリティについて空手形を切っていたとなれば、性虐待や暴力被害についてのアンバー・ハードの証拠証言能力が弾劾されてしまうのも当然だった。
アンバー・ハード(Getty Images)
世間は、嘘の事実そのものの衝撃より、ジョニー・デップと比べて圧倒的に弁が立つアンバー・ハードの口から空手形の事実を告白させたカミーユ・バスケス弁護士の激しい「追い込み」が素晴らしかったと、沸いている。
さらに、注目を集めたのが、被害者を演じて証言台で涙ぐむアンバー・ハードを弾劾する反対尋問で、カミーユ・バスケス弁護士がアンバー・ハードに極めて厳しい質問をしながらも最後まで権威的にならず、陪審員だけでなくお茶の間の視聴者の信頼をも獲得した点だった。その微妙な法廷戦術とキャラクターをメディアは絶賛している。
つまり、単なる厳しくおっかない弁護士はそこら中にいるが、厳しい質問をしながら謙虚さを保持し、涙ぐむ被害者本人である証人よりも弁護人のほうが正直で謙虚であるという印象を形成し、どちらを信じるべきなのかというときに、陪審員に弁護人の言説のほうをとらせるということはなかなか簡単ではない。
双方の弁護士によるテクニック上の攻防も極めてドラマティックだった。法廷にカメラが入ったことで、激突時のテンションがとても高まったことは事実だ。
写真中央がカミーユ・バスケス弁護士(Tasos Katopodis / GettyImages)
その例の1つとして、カミーユ・バスケスが相手の弁護士に対して、20分間で40回もの異議を出したことも、さんざん取り上げられている。通常の裁判では、これほど異議が出される場面を見ることは滅多にない。
いくらでも異議を出す自由があるとはいえ、意味のない異議を出せば裁判長に注意をされて心証を悪くし、裁判と同時並行的に進むさまざまな申し立てについて不利をくらうことがあるからだ。
その点、猛烈なこのカミーユ・バスケスの異議については、今回の裁判長は約8割を認めていた。それだけ、異議の内容が精密であったと言えるが、相手の弁護士の(証人への)質問に相当な集中力を払っていないとこれほどのことはできない。
異議が採用されると、カミーユ・バスケスはますますリズムに乗り、異議のテンポそのものを速め、法廷マニアで埋まった傍聴席はむしろこの「マシンガンのような異議」を待ち望む雰囲気となった。