アマゾンは企画書を「理想の顧客体験」から逆算して書く

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「理想の体験」からさかのぼって、Kindleは完成した


デジタルメディア・グループが最初に発表した製品がKindleだった。まず最初にプレスリリースを書く「ワーキング・バックワーズ」によって生まれた最初の商品の1つである。

Kindleは、あらゆる面で画期的だった。それは先端的なEインクのディスプレイを採用していた。顧客はこのデバイスで直接書籍を探し、買い、ダウンロードできる。パソコンやWi-Fiにつながなくても使うことができる。

当時、ほかのどんなデバイスやサービスと比べてもKindleで読める電子書籍は多かったし、価格も安かった。多くの機能はいまではありふれたものだが、2007年当時のKindleは画期的だった。

しかし、当初からKindleにこれらの機能を搭載することを想定していたわけではない。

開発の初期段階では、顧客の視点から見て、魅力的な機能を備えたデバイスとはどんなものなのか、特長を述べることがまったくできていなかった。

プレスリリースによる開発手法を導入する前だったので、私たちはまだパワーポイントとエクセルを使って考えていた。重視していたのは、技術的な課題、ビジネス上の制約、売上や財務指標の見通し、マーケティング戦略といったことだ。要するに私たちは「現在」に軸足を置き、その延長線上で仕事をしていた。顧客ではなく、アマゾンという企業にとって有益な商品を創造しようとしていたのだ。

だが、最初にプレスリリースを書いてから商品開発を始めると、すべてが変わった。私たちは、顧客にとって最善であることをめざすようになった。

素晴らしい読書体験ができる最高品質のスクリーン、書籍の購入とダウンロードが簡単な注文プロセス、豊富な品揃え、低価格。プレスリリースを用いた方式でなければ、こうした最上の顧客体験を実現するための突破口は開けなかったに違いない。おかげで開発チームは、顧客の課題を解決する手段を数多く考案できるようになった。

社内外からの「ありそうな問題」に先手を打つ


私たちは次第にこの開発プロセスに熟達していった。やがて「プレスリリース」(PR)を改良し、2つ目の要素をつけ加えた。「よくある質問とそれに対する回答」(FAQ)だ。

FAQは改良するにつれ、社外からの質問と社内からの質問の両方に対応するようになった。

社外とは、マスコミや顧客のことだ。「アマゾン・エコーはどこで購入できるか」「アレクサは何をしてくれるのか」といった質問だ。

社内とは、社員や経営幹部を意味する。

・「HDディスプレイ搭載の44インチテレビを粗利25%、小売価格1999ドルで販売するにはどのように製造すればよいか?」

・「顧客が通信事業者と直接契約しなくても、ネットに接続して購入した書籍をダウンロードできるようなKindleのリーダーはどうしたら実現できるか?」

・「この新しい着想を実現するには、ソフトウェア開発者とデータサイエンティストを何人採用する必要があるか?」

といった質問が想定される。

つまりFAQとは、書き手が顧客の視点から計画を詳細に説明したうえで、社内のオペレーション、技術、プロダクト、マーケティング、法規制、事業開発、財務といった観点から、あらゆるリスクや課題について述べる場なのである。

ワーキング・バックワーズのための文書は「PR/FAQ」として社内に周知されていった。


『アマゾンの最強の働き方』2022年、ダイヤモンド社刊、コリン・ブライアー/ビル・カー著、紣川謙 監修、須川綾子訳

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