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2022.05.31

豆腐屋さんで見たトヨタ社長の「からくり整理術」

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『トヨタ「家元組織」革命 世界が学ぶ永続企業の「思想・技・所作」』

「岡山にある豆腐工場に一緒に行きませんか」

2019年真冬のこと。トヨタ自動車の豊田章男社長は、投資顧問会社スパークス・グループの阿部修平に声をかけたという。豆腐とクルマ。すぐにこの2つの関連性が思いつく人はいないだろう。

阿部が不思議に思いながら向かったのが、岡山市内にある小さな豆腐工場だった。70代の夫婦が経営しており、パートの従業員たちも全員高齢である。なぜ、世界的な大企業の社長が地方都市の豆腐工場に赴いたのだろうか。

自動車会社の社長が豆腐屋を覗いたら


豆腐作りは重労働の連続だ。水と豆腐が何十丁も入ったトレイを持ち運んだり、焼き豆腐をつくるためにバーナーで焦がした豆腐をのせた大きなトレイをひっくり返したりと、毎日学校給食用にもつくっているため、大量の豆腐をつくる日々を送っている。作業をする高齢の従業員は腱鞘炎に悩まされ、経営者の奥さんの腕はアザだらけだ。

豊田章男はひと通り工場内を見回すと、改善が必要なポイントを指摘した。まずは、ホワイトボード。現場では、単位も期間もバラバラの注文書がホワイトボードに貼ってある。ご主人にしかわからない未整理のオーダーであるため、「属人的な」処理が行われている。豊田章男はそれを統一した受発注用紙にし、工場の皆が「今日やるべき仕事内容」をシンプルにわかりやすくした。

そして、働く人の負荷を緩和するために「からくり」をつくった。「からくり」とは、トヨタの生産現場で従業員が作業動作を軽減し効率的に動けるように自ら作り出す装置のことだ。アルミなどを使った簡易なもので、コロナ禍で広まった足踏みペダル式アルコール噴射機のようなものを思い描いていただきたい。さらに気になったのは、重いトレイを両手で抱えて工場内の狭い通路を運ばなければならないことだ。ホームセンターで市販されている台車では通路を通れないからだ。そこで通路の幅に合わせた簡易的な台車をつくることを提案した。

なぜ豊田章男には改善点が見えるのか?


オーダーという情報、重いトレイ、従業員の動き。瞬時に「情報、モノ、ヒト」の流れをつくるには、豆腐の生産プロセスの問題点を見つけなければならないのだが、なぜ豊田社長には見えたのか。

阿部が尋ねると、豊田からこんな答えが返ってきたという。

「僕は入社して、生産調査部にいたから」

生産調査部は、「トヨタ生産方式(TPS−Toyota Production System)」を体系化したことで知られる大野耐一(1912~1990)が創設した部門である。TPSは〈ムダを徹底的になくして、よいものを安く、タイムリーにお客様にお届けするトヨタの経営哲学〉と言われている。豊田は、豆腐屋の生産工程の手順を理解したうえで、「からくり」などを使って工程の改善を提案した。鳥の眼のように俯瞰して複雑化したものの基本パターンを見抜けるのは、TPSが彼の習慣であり、体にしみついた「技」だからではないか。そこで阿部はある仮説を立てたという。
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文=中田浩子 編集=松浦朋希

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