ビジネス

2022.05.26

スタートアップ創業者は不景気の可能性をどう捉えるべきか?


この状況は、日本のスタートアップにどのような影響を及ぼすでしょうか。まず良いニュースは、国内のVCも以前より大型のファンドを組成できるようになってきているので、国内でもある程度の資金源を確保できるという点です。悪いニュースは、おそらく今後はバリュエーションが全体的に下がり、特により進んだラウンドほど影響を受ける可能性が高いことです。ベンチマークとなる上場株のマルチプル(倍率)が低下しているからです。

おおまかな傾向として、ブルマーケットでは上位10%程度のスタートアップが資金調達に成功します。一方で、ベアマーケットでは、それが5%くらいに狭まります。要するに、上位5%の企業は、より控えめな条件にせざるを得ないことはあっても、市場サイクルのどの時点でも資金調達できるのです。好景気のときだったら、上位5%のSaaS企業ならARR(年間経常収益)の40倍以上のバリュエーションが付けられたかもしれません。今は、成長率やチーム、マーケットなどにもよりますが、おそらく10〜30倍くらいでしょう。

言いかえれば、限られた資金プールを巡って、全てのスタートアップが自分たちは上位5%だと主張して争っている状況だということです。上位5%の目安として、例えばディープテック系以外の企業で年間収益が1〜10億円程度であれば、ほとんどの場合は前年比3倍以上の成長率を達成しないといけません。誤解のないように言うと、そのレベルの高成長や、上位5%としての評価がなければ資金調達できないという意味ではありません。それくらいの条件を達成できる企業なら、おおよそいかなる環境であっても調達できるということです。

ここから本格的な景気後退に突入するのか、ただのフェイントに過ぎないのか、予想することは不可能です。しかし、もし景気後退なのであれば、企業は十分に備えておくべきでしょう。過去2回の景気後退はそれぞれおよそ10四半期、つまり2年半ほど続きました。それくらいの長さの期間を耐え抜くには、起業家たちも「資金調達しないといけないときに、する」から「資金調達できるときに、する」へマインドセットを変える必要があります。バランスシートの強化が重要です。


(図中の訳)「インターネット・バブルではピークから最安値まで10四半期、グレート・リセッションでは2007年のピークから9四半期後退が続いた」

暗い印象の記事になりましたが、個人的には長期的展望についてまだポジティブに考えています。まず、ドットコム・ブームのときと違い、多くのテック企業が実質的な増収を確保できています。バリュエーションがなす術もなく悪化しているとは言え、以前のような机上の空論の「ベイパーウェア」ばかりではないのです。また、日本では米国のように天文学的な水準までバリュエーションが吊り上がることがなかったと思われる点も好材料です。過去にいくつものトップ企業が景気後退時に生まれていることも忘れてはいけません。米国ではDropboxやAirbnb、Uber、日本ではビズリーチ(ビジョナル)やUzabase、ラクスル、メドレーなどをはじめとした多くの企業が2007年から2009年の間に生まれています。要するに環境に合わせてより規律ある戦略を実行し、バリュエーションに対する期待値を調整すればいいのです。優れた企業であれば、きっと逆境をバネにより強く成長できるはずです。

連載:VCのインサイト
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文=James Riney

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