ビジネス

2022.05.22 16:30

米国組織戦略のプロが語る「優秀さの条件を再定義せよ」

Forbes JAPAN編集部

必要な人材を外部から採用し、失敗した例を挙げよう。米GEが立ち上げたGEデジタルだ。GEは産業機器のIoT(モノのインターネット)化のリーダーを目指し、13年、開発に着手。カリフォルニアのベイエリアにGEデジタルの本社を置き、何千人ものソフトウェアエンジニアを雇った。

だが、彼らのバリュープロポジション(提供価値)が本社のバリュープロポジションと拮抗。GEデジタルは分社化され、ほとんどのエンジニアがいなくなった。

一方、6要因の最後の項目、「明日のスターが企業に求めるものを理解する」で紹介したが、米クラウド大手のサービスナウは、バリュープロポジションで優秀な人材を引きつけることに注力している。

彼らが、自社の価値としてアピールしているのが「ハングリーさ」と「謙虚さ」だ。どん欲に学び、よりよい職場をつくり、顧客中心のサービスを提供する一方、チームの一員として謙虚さも兼ね備えているような人々が働く会社──。
そうしたバリュープロポジションが、優秀な人材を引きつけ、つなぎ留める要因になっている。

データ主導の人材マネジメントが重要なのは、人的資本が希少なリソースであり、生産性で他社をしのぐための最大の原動力になるからだ。

「マネジメント開発」も重要


──3つ目の要因である「マネジメント開発をおろそかにしない」ことは、なぜ重要なのですか。

不況になると、マネジメント開発や社内研修の予算が削られがちだが、従業員の解雇と新規採用は高くつく。

必要なスキルがないという理由で優秀な人材を解雇するのはナンセンスだ。リスキリングで雇い続けるほうが格段に低コストで済む。マネジメント開発で適切なリスキリングを施せば、必要なスキルの6割を既存従業員でまかなえる。

必要な人材をすべて新規採用するのは非現実的でもある。人手の確保が最も難しい職種のひとつ、データサイエンティストをベイエリアで見つけるのは至難の業だ。報酬が高額なうえに引く手あまたであることから、雇っても離職率が高い。

新規採用が難しいから社内に目を向ける、というやり方では順番が逆だ。まず社内調達を考え、不足部分を外から補うべきだ。

──前出の論文「データ主導の人材マネジメントを実践する方法」で、テックが仕事の性質を大きく変えつつあるなか、大半の企業では要員計画などがさほど変わっていない、と指摘していますね。企業は、要員計画や人材マネジメントを「より戦略的で包括的、厳格でデータ主導の方向に変えていくべきだ」と。

将来、企業が勝利をつかむために必要なスキルや能力が変わり、データサイエンスやソフトウェア工学、環境工学などが求められるようになった。

「ピープルアナリティクス」(注:人事データを分析し、組織の問題を解決する手法)が向上したにもかかわらず、人事部の多くは、そうしたツールを駆使した要員計画などへの理解が乏しい。1980年代後半以降、あまり変わっていないのだ。

人事マネジメントへの根本的アプローチを変えようとしない企業は、他企業にますます後れを取ることだろう。

マイケル・マンキンス◎ベイン・アンド・カンパニー、オースティンオフィスのパートナー。組織・戦略プラクティスのリーダーを務める。25年以上にわたり、長期的成長のための組織戦略の策定に携わる。共著書に『TIMETALENT ENERGY』(プレジデント社)がある。

インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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