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2022.05.05 12:30

フランスのバカンスと雪山 スープを通して「味嗜み」を考える

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WHO(世界保健機関)が1986年のオタワ憲章で提唱し、2005年のバンコク憲章で再提唱した新しい健康観に基づく21世紀の健康戦略に「ヘルスプロモーション」というものがあります。「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されるものですが、雪山のスープは理想的なヘルスプロモーション、かつ文化だなと思います。
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というのも、雪山で運動した後は、ついつい「お腹が空いた〜」と食べる気満々になりますが、食事を香り高いスープから始めると、嗅覚を通して満腹中枢が刺激され、メインまでの間に少し食欲を抑えることができます。


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スープの香りを楽しんだあと、実際に口にすると、胃では、味覚受容体がうま味(UMAMI)を受け取り、そのUMAMIの情報は迷走神経を介して脳に伝えられます。そして、タンパク質の消化吸収を始める指令が脳から胃に送られ、消化液を分泌して胃の働きを活発にさせます。
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また、UMAMIは胃腸を保護する粘膜の分泌を促進させるため、胃もたれを防ぎます。脳に「食べ物を食べた」という信号と、「必要な栄養を得たから食べるのを止めていいよ」という信号を送り、過食を防ぐ作用もあります。

習慣を通しての「味嗜み」


コース料理では、スープのUMAMIで過食を抑えたり、サラダの食物繊維やドレッシングの酸味で血糖値の上昇が緩やかになることで、食事を通して穏やかに癒されるものです。健康のために「野菜から食べる」というのは随分浸透してきていますが、こうした食べる順番が最近改めて注目されています。

一方、日本の雪山を思い出すと、感覚を満たすより腹を満たすというか、時短で手っ取り早くお腹いっぱいになるような料理が並んでいたなと思います。もちろんヨーロッパにもファストフードはありますが、丼モノやカレー、ラーメンなど、その時の欲求を満たす時短料理とは違う、食事を通して豊かな時間の使い方を学ぶことが「味嗜み」だとすると、サラダもスープもメインディッシュと同じお盆にのる“セットメニュー”は考え所かもしれないです。


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お腹が減ってる時こそ、忙しい時こそ、本能に任せて味わおうとするのではなく、時間を嗜む。「人」は「間」を持つことで人間らしくいられると言いますが、「間を入れること」大切さを共育していくヒントは、山篭りや日々の食卓の時間に隠れているようです。

文=松嶋啓介

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