マリウポリはアゾフ海に臨む港湾都市で、戦争前には40万人ほどが住んでいた。ロシアのウクライナ侵攻後、激しい攻撃にさらされ、街はほとんど廃墟と化している。現在は製鉄所に立てこもった少数の兵士が最後の抵抗を続けているが、欧州の当局者は19日、マリウポリは数日で陥落するとの見方を示した。
マリウポリを掌握すれば、ロシアは戦術面で大きく有利になる。米国の国防当局者は、マリウポリを落とせば、ロシアは2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島と、一部を新ロシア勢力が実効支配するウクライナ東部ドンバス地方を結ぶ「陸の回廊」を打通できると説明する。それによって、ロシア軍は侵攻の新たな主要目標に据えたドンバス地方への部隊動員がしやすくなるとみられる。
マリウポリは経済的にも重要な都市だ。同市はアゾフ海最大の貿易港を擁し、ウクライナ南東部の主要な輸出拠点だった。ジョージタウン大学の研究者マーガリータ・コニーフは、マリウポリを失えば、ウクライナは海へのアクセスが制限されることになり、経済が麻痺状態に陥ると米公共ラジオNPRで語っている。
ロシアにとってマリウポリ占領は政治的にも重要な意味がある。マリウポリは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がクリミア併合後に言い出した「ノボロシア(新しいロシア)」に含まれる。ノボロシアはウクライナ南部や東部にあたる地域だが、プーチンはロシアの一部とみなしている。マリウポリ奪取は戦争開始後、もっともめざましい勝利としてプーチンの大きな宣伝材料になるだろう。
マリウポリでは「人道回廊」を通じた民間人の避難や物資の補給が繰り返し失敗し、人道危機が続く。ワディム・ボイチェンコ市長は先週、市内での民間人の死者は少なくとも1万人にのぼるとAP通信に語った。ただ、この数字は現時点では独自に確認がとれていない。