1980年代半ばは、戦後日本が最も輝いていた時代だった。自動車や半導体、家電が世界市場を席巻し始め、GNPは世界第2位に躍り出た。世界の十大銀行の過半が邦銀、円は本格的な国際化をうかがっていた。
暗転は米国の仁義なき攻勢で始まった。Japan as No.1ともち上げられ、先端技術や金融など、米国の核心的利益分野を脅かす日本への反撃である。
1985年のプラザ合意で急速な円高を起こし、直後の日米円ドル委員会で日本の金融・証券を狙い撃ちにし、86年の半導体協定で世界トップの日本の半導体業界を葬り去った。日本側に対峙したのは米国通商代表部(USTR)だった。日本国内の商習慣やルールに無遠慮に手を突っ込んで恫喝する様に、日本の関係者は「第二の進駐軍だ」と恐れ嫌悪したものである。
私は当時、米国製たばこの対日輸出促進問題にかかわっていた。彼らは、日本では輸入たばこに関税をかけたうえで流通税まで課している、これは二重課税であり、高率の関税を撤廃しない限り報復措置を取る、という。電話口で“retaliation! sanction!”(報復、懲罰)と喚くUSTRの若者の声はいまでも忘れない。ごり押ししてまで健康に悪いたばこを買わせようとしている。米国内で嫌煙ムードが高まるなかで、米国たばこ業者にとって、健康被害を輸出する「おいしい」市場が日本だった。
この時期、米国は日本の重要3分野に3本の矢を放った。それぞれの矢は、劣化ウランのように硬い鏃(やじり)で日本の通貨、金融、先端産業を射抜いた。
昨今、これらの猛射を受けているのが中国である。特に情報産業とその基礎になる半導体がホットポイントだ。台湾に焦点があたる理由も、その半導体ファウンドリーの高い技術にある。絶対に中国にこれを奪われてはならない。米国の中国批判は、人権問題、香港の強制併合、西太平洋領海問題を絡めてくるが、現下の懸案は半導体覇権である。
理念としての民主主義や人権の重視はもちろんあるが、米国は理念だけでは行動を起こさない。理念が経済など国益の危機と結びついて、初めて実力行使に出る。そして国益が重要なものであればあるほど報復手段に容赦はない。太平洋戦争もそうだった。
中国は、米国の苛烈な攻撃をかわせるのか。現状の国力は明らかに米国が上である。EUもいざとなったら米国側だ。しかし、中国は20世紀後半の日本とは違う。強力な軍事国家であるし、経済力は米国に肉薄しつつある。人口は米国の4倍もある。しかも、米国とガチでやりあう意思が固い。