とはいえ、手ごわい競合も存在する。最大のライバルは、配車サービス大手「Gojek(ゴジェック)」とeコマース大手「Tokopedia(トコペディア)」が合併し、誕生したインドネシアのスーパーアプリ「GoTo(ゴー・トゥー)」だ。ゴー・トゥーはインドネシア市場を基盤とし、ゴジェックを通じてシンガポールとベトナムにも進出している。
東南アジア制覇を狙うグラブにとって、1兆ドルの経済規模と、3億人近い人口を擁するインドネシアは重要な市場だ。同社は、インドネシアでの地位を強化するため、21年7月に同国のハイテクメディア企業エムテックと提携。エムテックがグラブの現地法人に3億7500万ドルを出資した。
競合の一つ「ウーバー」は、グラブと共生するアプローチをとった。18年にグラブがウーバーの東南アジア事業を買収した際、ウーバーはグラブの株式27.5%を取得し、ダラ・コスロシャヒCEOをグラブの取締役会に送り込んだ。中国の配車サービス大手「DiDi(滴滴出行)」もグラブに出資している。
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さらに、フィンテック分野でグラブにとって最大の競合は、シンガポールに本社を置く東南アジアで最大規模の時価総額を誇るハイテク企業の「SEA(シー)」グループだ。20年末、グラブはシンガポールの通信最大手シングテルと組んで、シンガポール当局が付与するデジタル銀行の免許を取得したが、もう一つのライセンスはシーに付与された。
17年にデジタル決済サービスの「GrabPay(グラブペイ)」を立ち上げた同社は現在、保険、融資、資産管理、後払い決済サービスなどを手がけ、22年第2四半期にシンガポールでデジタル銀行業務を開始する予定だ。グラブはまた、19年にマスターカードと提携し、オンラインとオフラインの両方で使えるグラブペイカードを立ち上げている。
グラブはまた、インドネシアの電子ウォレット大手「Ovo(オーヴォ)」の株式の過半数を取得して東南アジアの金融サービスの改革に乗り出した。タンは、「東南アジアでは、銀行口座をもたない人が10人のうち6人もいる」と話す。
グラブは15年にフィンテック業界に参入した。彼らの背中を押したのは、同社に初期出資してきたベンチャー投資会社(VC)「GGVキャピタル」のマネージングディレクターのジクサン・フーだ。
「電子決済は、消費者を理解するための強力なツールになり、スーパーアプリの成否を決定づける莫大な戦略的価値を秘めています」(フー)
調査会社ガートナーのクリストフ・ウズローも「グラブが従来の銀行や、ゴー・トゥーなど、ほかのスーパーアプリ事業者に勝つためには、新世代の銀行ビジネスとして他社との違いを明確にすることが重要だ」と指摘する。
グラブが期待するもう一つの成長分野が「広告」だ。同社が18年に立ち上げた広告部門の「GrabAds(グラブアド)」は21年9月、広告大手WPPの子会社と1年間のパートナーシップを締結。広告部門のGMVは、6月末までの四半期に3400万ドルとまだ小規模ではあるが、前年同期と比べると6倍以上に拡大しており、広告がグラブにとって重要なビジネスに成長する可能性を示唆している。