ドラマは、ウィルが過去飽きるほど聞かされたエドワードの「お話」と、現在の状況が交互に展開されていく。
「お話」場面は、ファンタジーとホラー味が入り混じり、毒っ気のあるユーモアが随所に散りばめられた、ティム・バートンお得意のタッチだ。色彩はイキイキと鮮やかで、ひと癖ある登場人物が次々現れ、超現実的なことが何度も起こる。
幼い頃、友達と町外れの魔女の館に行き、自分たちがどうやって死ぬかを見せられた話。年頃になりスポーツや奉仕活動で大活躍し、人々に恐れられた洞窟の大男カールを説得して2人で町を出る話。
森に迷い込み、住人が全員裸足の小さな町スペクターで、靴を取られる話。湖で見た幻の美女、自分を慕う8歳の少女ジェニー、優しい住人たちとの別れ。
やがてエドワードはサーカスで美しい女性に一目惚れし、狼の化身の団長に頼み込んで、彼女の素性を教えてもらうためサーカス団で働き出す。
ようやく出会えた憧れの女性サンドラは既に婚約者がいたが、窓の外を一面水仙のお花畑に作り替え、婚約者に一方的に殴られることで彼女のハートを射止める。
……と、すべてこんな調子で、結婚後の兵役時代の特殊任務もセールスマンとしての仕事も、まるで冒険活劇マンガのような展開となっている。
アルバート・フィニー(Vera Anderson/Getty Images)
元はスペクターに住む詩人で、間抜けな銀行強盗にエドワードを巻き込み、やがてウォール街で大成功してエドワードにも富をもたらすノーザン(スティーヴ・ブシェミ)にしても、相当怪しい人物だ。
そうした中で、若き日のエドワード(ユアン・マクレガー)は、すべてに積極的かつ楽天的で、失敗を恐れぬエネルギーに満ち満ちた好青年として描かれる。というかそのように、年取ったエドワードは話している、ということだ。
ウィルはもちろんこれらを、エドワードの作り話だと思っている。幼い頃は驚きをもって聞き入った奇想天外な話も、大人になると「ホラだったのでは?」と思えてくるものだ。
事実とフィクションの融合
「本当の父さんを見せて」と病床の父に思いをぶつけるウィルに、エドワードは「わしはいつも本当だ」と返し、2人は噛み合わない。
後半はこのすれ違い続ける息子と父、「事実とフィクション」が、どのように融和していくかが描かれる。
父の小屋で古い証書を見つけたウィルが訪ねていったのは、古色蒼然とした家に住み「魔女」と呼ばれるジェニファー(ヘレナ・ボナム=カーター)。彼女の話から、結婚後のウィルが荒廃した町スペクターの再建に尽力し、彼を待っていた少女ジェニーの成長後であるジェニファーの窮状も救っていた、という事実が判明する。
ここからウィルは、スペクターという町やジェニーという少女が実在していたこと、子供の頃留守がちであった父が外で人助けに励んでいたことを知るのだが、見ている者はあるひっかかりを覚えるだろう。
ジェニファーと、エドワードが少年時代に出会った魔女を同じ俳優が演じているせいで、時間が循環しているような錯覚を覚えるのだ。ジェニファーという女性が、まるで事実とフィクションの境目に存在しているようだ、と言ってもいいかもしれない。