ただし、今回の研究には大きな制約がある。マウスで実施されたため、ヒトにおける結核や新型コロナウイルス感染症のすべての要素がじゅうぶんに再現されているわけではない。
「とはいえ、結核と新型コロナウイルス感染症の動物モデルは、この性質を研究するのに最適だと考えている」と研究チームは論じている。「なぜなら、もし、別種の慢性肺疾患を患う患者における新型コロナウイルス感染症の研究をなんらかの指針とするならば、結核患者では、しばしば多くの合併症(栄養失調、HIVなど)が見られ、結果の解釈を混乱させるため、人間における新型コロナウイルス感染症の転帰において、結核の影響を解明することは難しい可能性が高いからだ」
今回の知見にもかかわらず、結核と新型コロナウイルス感染症の二重感染の可能性を完全に排除することはできない。「フロンティアズ・イン・メディスン(Frontiers in Medicine)」誌に掲載された2021年の研究では、中国を拠点とする研究チームが、結核と新型コロナウイルス感染症の二重感染患者では、新型コロナウイルス感染症のみの患者よりも重症化や死亡にいたる傾向が大きいことを明らかにした。
結核が蔓延している国では、新型コロナウイルス感染症の疑いがある人や確定患者に対して、結核の定期検査を実施することが望ましい、と研究チームは推奨している。
WHOは2021年10月、結核の死者数がここ10年で初めて増加したと報告している。一方で、インドや中国などの16カ国では、パンデミック勃発以降、結核の診断数と報告数が減少している。つまり、複数回にわたるロックダウンが、医療にアクセスできずに命を落とす結核患者の増加につながっている状況だと考えられる。
この問題への対策として、インドなどの政府は、コロナ陽性患者に対して、2~3週間経っても咳が続く場合には結核喀痰検査を受けることを推奨するガイドラインを公開している。