しかし、アジア通貨危機を経て、国内市場の成熟を待たずに拙速に資本移動を自由化すると、国内の金融システムの脆弱性を招き、さらに欧米のヘッジファンドなどが通貨市場や株式市場に空売りを仕掛けて相場を突き崩すことも問題だ、という批判が(主にアジアから、そしてアメリカの学界からも賛同者を得て)強く出された。そして、その後20年の間に、「ワシントン・コンセンサス」は学界では主流ではなくなった。
アジア通貨危機がタイの通貨危機だけで終わっていたら、ワシントン・コンセンサスは学界とIMFで勝ち残っていたかもしれない。しかし、タイと並んでインドネシアも韓国も通貨危機に陥り、マレーシアも香港も危うく通貨危機に陥るところだった。これだけの国が危機を経て、かつ、アジアの国際金融の学者にアメリカの学者も加わってワシントン・コンセンサスの欠陥を指摘、ようやく学界や政策担当者の考え方にも変化がみられるようになった。
そのころよく言われたたとえがある。
「急カーブで1台の車が事故を起こしたら、そのドライバーの過失で済むが、何台も立て続けに事故を起こすならば、それは道の設計が悪い」
話題が変わるが、2月7日に行われた北京冬季五輪のスキー・ジャンプ混合団体で、女子選手4カ国の5人がスーツ規定違反で失格となった。日本では女子スキー・ジャンプのエース高梨沙羅が、スーツの規定違反で、1本目の大ジャンプが失格とされた。注意不足だったのではないかとか、高梨の謝罪の弁が大きく報道された。
しかし、ドイツやノルウェーの反応はまったく異なる。この日に限って、採寸の方法が異なっていることや、男性審査員が「介入」した、などおかしなことを指摘して、公に抗議している。5人も同時に失格になるのは、決して高梨や日本に問題があったことではないことを(ほぼ)証明している。
通貨危機や道路の急カーブと同じ理屈だ。他の国は怒りをあらわにしているのに、なぜ日本だけへこんでしまって抗議しないことを決めてしまったのか。