採用で人気の理由は「物語の一員になりたいから」
本田:マネーフォワードさんは「タブーに挑む」物語でもありますよね。これもナラティブのひとつの型と言えます。また、「〇〇をなくしていく」という型も、近年のSDGsの高まりで増えているイメージです。産業廃棄物処理の石坂産業さんは、「ごみをごみにしない社会」というビジョンを掲げています。産業廃棄物処理の会社というと採用もままならないイメージですが、意識の高い優秀な学生からの入社希望が集まってきています。
柏木:新卒の入社希望が多いというのは驚きです。
本田:まさにナラティブの力です。スタートアップになぜナラティブが重要かというと、採用にも直結するからです。特にZ世代は「初任給がよい」「親が安心する有名企業」という理由よりも、企業のナラティブ的なものにひかれる傾向があります。
この会社はどういうことを存在意義としていて、誰のどんな問題を解決しようとしているのか──。石坂産業さんのように物語が明確に見えると、「自分もその物語の一員になりたい」という欲求をもった若い方が集まってくるのだと思います。
いまの若い人たちは「自分が何をしたくて、どんな人たちとどんな物語を紡ぎたいか」という意識が高い。どんな会社があるのか、昔は『四季報』で調べていたのが、いまは「どんなナラティブがあるか」という視点でネットやSNSを駆使して探している。スタートアップか大企業かにかかわらず、「どういうイシュー(社会課題)に貢献しているか」という点を相互に発信するコミュニケーションを強化すべきだと思います。
柏木:私が新しく社外取締役になった、フードロス削減を目指しショッピングサイトを運営するクラダシも若い世代をひきつけている会社の一つです。知名度はまだまだにも関わらず、20代からの応募がとても多いです。応募者が口を揃えて理由として挙げるのが「社会貢献」。
また、代表取締役として参画したIsland and officeは、今年奄美大島にオフィスをオープン予定なのですが、奄美大島出身の学生がわざわざPR TIMESで探して「インターンをしたい」とコンタクトしてきてくれました。彼女は別の会社で社会人になってからも副業として携わってくれる予定です。「なんでそんなに働くの?」と不思議に思うのですが、「とにかく私は奄美に貢献したいんだ」と。大人たちはポカーンとするんです(笑)
社会課題解決とオーセンティシティとを1本の線でつなげる
本田:ここ数年で目立ち始めた相談は、社内に対しても経営者の思いを伝えたいというものです。『ナラティブカンパニー』(東洋経済新報社)を読んでいただいた方からは「社外と社内の課題は、ナラティブでくくるとよいという気づきがあった」と加速度的にご相談は増えています。
もともと、広報部などのPR機能は、社内広報担当と外部メディア担当に分けている企業がほとんどでした。しかしいまはその境界線が溶け合ってきているし、社内と社外で二枚舌にもなれないし、分けている場合じゃない。
経営者が「組織の求心力を高める」という目的があるときには、社内のことばかり言及するよりも、「どうしたらステークホルダーの求心力を高められるか」を考えたほうがいい。その解決策のひとつとしてナラティブに答えを求める経営者が増えたように感じます。