性病は心をも蝕む。海外にはない? 「タブー」の壁は
これまで性感染症を患った人は、体よりも不安による精神的なダメージが大きかったのではないだろうか。友人にも家族にも相談できない状況が、より当事者を追い詰めてしまうこともあるだろう。
「性感染症を経験したとき、感染自体を『恥ずかしいこと』と感じてしまい、なかなか人に話せない人も多いでしょう。特に10代の場合は、『親に知られなくない』という感情から受診ができず、対応が遅れることもあるようです」
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なぜこれほどまでに、性感染症を「タブー」と感じてしまうのだろうか。日本の性教育は、海外よりも遅れているのだろうか。内田氏に聞いてみた。
「海外では性教育が義務化・必修化されている国や、未就学児への性教育も実施されている国があることを鑑みると、日本は『教育』という側面で遅れを取っている現状があると思います。ユネスコが中心となって作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、性教育を人権、ジェンダー平等という枠組みの中で再認識し、包括的な学びを提供することを推奨しています。
性感染症以外にも、性暴力の被害者・加害者にならないための情報なども盛り込まれています。日本の性教育でも、このような国際水準を満たしていく必要があると思います。令和3年度から『生命(いのち)の安全教育』が実施されることになり、日本の性教育も変わりつつあるのではないでしょうか」
日本では、性感染症を患っていることが明らかになった場合、患者の接触者やパートナーに検査勧奨を行うかどうかの判断は、現場の医療者の判断または患者自身の判断に委ねられている。伝えるのも患者自身というのが現状だ。
しかし、諸外国では性感染症患者の聞き取り調査などから、患者と性的接触のあった人に対して積極的な検査勧奨を行うというシステムも存在するそうだ。
「近年注目を集める日本の『健康経営』の中にも女性特有の健康課題への取り組みが挙げられています。しかし、月経関連や不妊、婦人科系がんなどの内容が多く、『性感染症』や『性暴力』などはほとんど扱われていません」
女性や人々の健康に関する理解と取り組みが活性化している一方で、性感染症にまつわる対応や議論は、遅れているかもしれない。「タブー」という壁はもう必要なく、改めて個人も組織も健康を維持するために向き合わないといけない。