この影響は、ナイキだけにとどまりそうにない。他社ブランドの製品を販売している大規模小売チェーンはみな、今回の動向を、来たるべき未来の前兆として注視しておくべきだ。ラルフ・ローレンやカルバン・クラインといったファッションブランドは、常にどの小売店に自社製品の販売権を与えるかに制限をかけてきた(ただし、両ブランドはいずれも、サードティア[三流の意味]に属するTJXなどの低価格小売チェーンでの売上に強く依存してきた)。
しかし、ナイキの決定は別格だ。大規模小売チェーンは上から下まで、収支報告へのダメージを考え、震え上がっているはずだ。デパートはとくに影響が大きいが、ディスカウントストアや専門店も例外ではない。
ファッション、ジュエリー、靴の分野では昨今、自社店舗をオープンするブランドがますます増えている。こうしたブランドが念頭においているのは、販路をコントロールして、自社製品を守ることだ。つまり、多くの小売チェーンの生命線となっている、絶え間ない値下げやクーポン発行、限定セールといったものから自社製品を守ることだ。
Eコマース売上の増加により、各ブランドは、購入者と直接つながる新たな方法を獲得し、数十年にわたって販売パートナーだった小売店を迂回することが可能になった。
一方、小売店側は、プライベートレーベル・プログラムや、傘下のブランド、独占契約といった、小売側のコントロールがより大きく、周囲から警告を浴びなくてすむ方法に、さらに力を入れていくと考えられる。
最後に残るのは、小売事業の拡大に踏み切るだけのスケールや資金や意欲をもたない、多くのファッション、アクセサリー、ビューティーブランドになるかもしれない。こうしたブランドは今後も豊富に存在するだろうが、かつてほどの数ではなくなるだろう。
すべてはコントロールの問題だ。価格、製品の販売場所、実店舗とオンラインストアでの製品の見せ方。こうした要素は、数十年にわたって小売店がコントロールしてきたが、いまや一夜にしてブランドに奪われかねない状況なのだ。
[お詫びと訂正 3/8 21:45]ナイキはフットロッカーから完全に引き揚げるのではないという情報を受け、記事のタイトルと冒頭の内容を修正・更新いたしました。フットロッカーは、引き続きナイキの商品の販売を続け、その仕入れは次年度の仕入れの55%程度になる見込みとのこと。フットロッカーの代表は「ナイキは今もこれからも、弊社にとって重要なパートナーであり、彼らと仕事をしないという意向はない」と話しています。