温浴施設内にはヴィヒタ(乾燥させた白樺の枝)が至るところに吊るされていて森の香りが漂い、男性用のサウナでは嬉野産のほうじ茶を使ったロウリュ(サウナストーンに水をかけて熱い蒸気を発生させること)も行われている。
さらに、他では体験できないようなサウナにしたいという思いで、2020年7月、女性用のサウナをリニューアル。クーゲルという凍らせたアロマをサウナストーブの上に置いて溶かし、香りも楽しめるようになった。
薪サウナや喫茶室も新設。喫茶室では、暖炉を囲みながら飲み物やデザートを楽しみ、ソファで寛ぐことができる。私も実際に宿泊してみたが、すべてを紹介しきれないほどさまざまな工夫が施されている。
サウナでひと汗流した後に、喫茶室で皆が裸で塩プリンを食べている様子は、少し不思議な光景ではあったが、生物として自然に立ち返り、命が洗われるような感覚となった。これが最高のサウナ独特の表現である「ととのう」という体験なのかもしれない。
サウナやチームラボとのコラボも、一方的なものではなく、顧客が参加することにより、五感を刺激し、普段味わえない非日常な体験ができる。このような施策は、小原がかつて仕事としていたDJの観客を楽しませるという発想にもどこかでリンクしているようにも感じた。
サウナの合間に暖炉を囲みながら、飲み物やデザートを楽しみ寛げる喫茶室
サウナブームは今後どうなるのかという問いに対し、小原は「『蒸気浴』という日本古来の文化とも繋がっているので、一過性のブームではなく、今後も続いていくと思う」と語る。
御船山楽園ホテルで宿泊者に配られる「サウナの手引書」にも、日本での蒸気浴の歴史や文化について詳細に記載されていた。あらためて、小原がサウナについて文化や歴史の側面からも探究し、理解を深めていることに驚いた。
彼のホテルに足を運び、ここまでのこだわりを持つサウナが多くの人を魅了し、それに伴い経営もV字回復を成し遂げたことにも納得した。また、サウナ1つとっても、その道を突き詰めていくことで、他との差別化が図られ、遠方からも人を呼び込むほど強力なコンテンツになることが証明された。
ブームと言われる「サ旅」が今後どうなるのかは未知数だが、小原が経営にあたる御船山楽園ホテルの進化はまだまだ終わりそうもない。
女性用のサウナは、自然光のそそぐ白を基調とした空間。クーゲル(アロマ)を取り出しサウナストーブにのせて溶かして香りを楽しめる
連載:「遊び」で変わる地域とくらし
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