ビジネス

2022.03.18

成功パターンを去れ。学びのコツは「アンラーン」にあった

『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』(柳川範之・為末大 共著、日経BP刊)

「アンラーン」というタイトルに惹かれて手に取ったが、まずは共著者二人がすごい。かたや独学勉強法の本で大ヒットを飛ばし、いまや「大人の学び」についての見識を深めようと思ったらまずこの人の言葉に触れてみたいと思わせてくれる、東京大学経済学部教授の柳川範之さん。もう一方は400メートルハードルで日本人として初めて世界大会でメダルを獲得し、現役選手引退後は経営者としてもご活躍の為末大さん。

『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』 は、現代日本には「アンラーン=過去の学びから、クセやパターン、思い込みをなくすことで、新たに成長し続けられる状態に自分を整える技術」が必要だというお二人による、新しい学びのススメだ。

誰もが「思考のクセ」を持っている


「無くて七癖」ということわざがあるように、誰もがクセからは逃れられない。しかも、往々にしてそのことに自分では気づかない。この場合のクセは、口ぐせや身体の動きのクセのことを指しているが、「思考にもクセがある」ことが本書では繰り返し指摘されている。そして、思考のクセは時に成長を妨げるもので、「アンラーン」の対象であるらしい。

思考のクセとは何か? ──ここでは「環境に適応してパターン化した意思決定プロセス」だと定義される。その例として添えられたイラストが、とても楽しい。「目玉焼きといえば……」「醤油、とごく自然に思ってしまう思考の習慣」が思考のクセであるというのは、とてもわかりやすく、思わず「なるほど!」と声が出た。これはもちろん、ちょっとしたユーモアであるが、「ああ、こういうクセは、確かにたくさんありそうだな」と素直に思わせられた。


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もちろんビジネスシーンでの例も紹介されている。そのひとつが、プレゼン方法のパターン化だ。「前回うまくいったプレゼン」を、次回以降も踏襲していくというのは多くの人がやっていることだろう。「成功パターンを見つけた!」くらいに自信を持って、自分の中でノウハウ化しようとさえするのではないだろうか。まさか、それが成長の妨げになっているとは思いもしなかった。

せっかくの成功体験を手放すのには勇気がいる。経験や積み重ねの価値も大事にしたい。そういう気持ちとアンラーンは対立しないのだろうか。
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文=白鳥美子(放送作家・ライター) 編集=石井節子

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