さて、日本全国、そして世界中を見回しても、そうした伝統的なお祭りには食べ物がつきものですが、このねぶた祭りにはこれといったものが見当たりません。どちらかと言うと屋台文化が栄え、地元青森の食材を揚げたり焼いたり、あるいは多くの食材を盛った「のっけ丼」が名物になっています。
これを知ったとき、僕は、比較的新しいこの屋台食文化に問題があるように思いました。これらを“回帰するべき地元の味”としているから、もしかしたら濃い味に慣れ親しんでいるのではないか……と推測しています。また、厳しい自然環境で育っている食材は、味が濃くて栄養価が高い。そんな恵まれすぎた食環境が実は仇になってるとも考えられます。
縄文遺跡「世界遺産登録」の意義
一方で、2021年に世界遺産に登録された縄文遺跡群に目をむけると、1700年続いた三内丸山遺跡の集落には、竪穴建物、掘立柱建物が配置されており、膨大な量の土器や石器のほか、多種多様な魚骨や動物骨、クリ、クルミなどの堅果類が出土しています。
また、日本最多となる2000点を超える土偶など、祭りの道具も大量に出土しており、この地で長期間にわたり祭祀・儀礼が継続して行われていたことを示しています。
縄文時代は、通年において自然資源を巧みに利用し、自然と共存し、祭りという文化を大切にしていた。僕はここに未来へのヒントが隠れているように思います。この土地の価値に、ユネスコが目を向けてくれていると言うのは大きな希望です。
日本を訪問したことのあるヨーロッパのお客様や友人と会話をすると、自然と共存する日本の豊かな文化に憧れを抱くと言われたりします。これまでは正直あまりピンと来ませんでしたが、地方に足を運び、気候風土の上に成り立った暮らしを知ると、日本人はもっと自分達の文化に自信を持つべきだと痛感します。
世界の課題解決を、青森から
東京で店を営業していた頃は、青森の恵みをよく使い、当たり前のようにいただいてきました。しかし、一次産業者が多い青森県は、働き盛り世代の死亡率が非常に高い。いわば、僕と同じ世代です。そこには必ず食の問題があるはず。例えば、都市部と地方の繋がりを大切にし、「孤食」ではなく「Co—食」にしていくことも解決の一助になると考えています。
世界で最もよく知られ、最も評価の高い五大医学誌の一つ「ランセット」では、世界中の食文化を研究し、寿命を縮める食生活の原因として次の3点、「塩分が多すぎる」「全粒穀物が少なすぎる」「果物が少なすぎる」を挙げています。
そこで今回の青森のレシピでは、旨味を取り入れることで減塩し、土地の歴史の学びから全粒穀物を取り入れ、農業大国故の野菜とフルーツの大量摂取に導けるようにしました。
食生活の改善は世界的な課題ですが、青森は、気候風土的にも、歴史的に見ても、それをいち早く解決できる可能性を秘めています。この課題に県を挙げて取り組む青森県に、料理の醍醐味である「人間味」という味を伝承していければと思います。
ニース在住のシェフ松嶋啓介の「喰い改めよ!!」
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