また、スウェーデンの海洋学者オットー・ペテルソンは、亡くなる直前、「死に臨んだとき、私の最期の瞬間を支えてくれるものは、この先に何があるのかという、限りない好奇心だろう」と語っている。さらに、「輪廻転生」を信じるダライ・ラマ法王14世は、あるインタビューで、いつものユーモアを交え、「死ぬのが楽しみだ」と答えている。
実は、筆者は、これまで、こうした「死後の世界」を想定する思想は、人類が「死の恐怖」から逃れ、「死」を受容するための「救済の物語」であると考えていた。
しかし、近年、筆者の専門でもあった最先端量子科学の世界では、我々の意識の記憶が、死後も存続している可能性を示唆する仮説が提示されている。
それは「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」と呼ばれるものであり、この宇宙に遍在する「量子真空」(Quantum Vacuum)の中に、この宇宙で起こった出来事のすべての情報が、ホログラムの波動情報として記録されているという仮説である。
この仮説については、拙著『運気を磨く』において詳述したが、もし、この仮説が正しいとすれば、我々の意識は、肉体が消滅した後も、何らかの形で存続している可能性がある。
しかし、仮に、そうした形で「死後の世界」が存在するとしても、やはり、この世界で与えられた、この人生は、一度かぎり。この人生には、いずれ終りがやってくる。そのことを覚悟するからこそ、我々は、かけがえの無いこの一瞬を慈しみ、精一杯に生きようとするのであろう。
されば、我々が気づくべき、一つの真実がある。「死」があるからこそ、「生」が輝く。
そのことに気づいたとき、人生の風景が変わる。
そして、この人生を生き切る、覚悟が定まる。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国7100名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。