HIVは免疫細胞の「CD4陽性細胞」に入り込んでそれを破壊し、増殖を続ける。新たに作られるよりも破壊されるCD4陽性細胞が多くなると、免疫の働きが徐々に低下、感染症にかかりやすくなることが分かっている。
発表された論文によると、「サブタイプB」と呼ばれるHIVの変異株は、その他のHIVの株と比べ、およそ2倍の速さでCD4陽性細胞を減少させる。つまり、エイズを発症するリスクは、より高いということになる。サブタイプBはオランダで発見されたもので、数年前にはすでに出現していたとみられている。
ただ、これまでに確認されている株に感染した場合の治療方法は、サブタイプBにも有効だとされる。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、この変異株が公衆衛生に対する大きな脅威になることはないとの見方だ。
ただ、UNAIDSは、世界には治療を受けていないHIV感染者が推計1000万人いることから、感染の拡大を抑え込むためには、治療へのアクセスをさらに改善させる必要があると指摘している。UNAIDSはHIVの流行を、「現代において最も多くの死者を出したパンデミック」としている。
UNAIDSによると、HIVがエイズの原因となることが確認された1983年以降、このウイルスに感染した人は、およそ7900万人。2020年に感染が確認された人は、約150万人にのぼっている。また、エイズの流行が始まって以来の関連疾患による死者は、約3600万人とされている。
新型コロナの変異との関連を懸念
HIV陽性者は新型コロナウイルスに感染した場合、重症化するリスクが高い。世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院したHIV陽性者のうち、23.1%が死亡しているという。
また、研究者らは、免疫力が低下しているHIV陽性者がCOVID-19にかかった場合、新型コロナウイルスはその体内で変異を繰り返し、現在各国で猛威を振るっている新たな変異株のオミクロン株のような、別の変異株を生み出す危険性があると考えている。
ワクチン開発が進行
HIVに感染した人の体内から、このウイルスを完全に取り除く方法は確立されていない。だが、現在までに感染したおよそ3800万人のうち、2800万人近くは抗レトロウイルス薬による療法を受けており、他者への感染を防ぎながら、健康を維持している。
一方、米バイオ製薬モデルナは今年1月、新型コロナウイルスのワクチンと同様にメッセンジャーRNA (mRNA)の技術を用いたHIVワクチンについて、第1相臨床試験を開始したことを明らかにした。
同社と共同でこのワクチンの開発を進めている米スクリプス研究所は昨年、このワクチンの「原理証明(PoP)」試験では、接種を受けた被験者の97%に目指す効果が確認できたと発表している。