プーチンがドル建て決済に代えて増やしてきたものが金だ。ロシアの金保有量は1995年には史上最低の20億ドル(現在の為替レートで約2300億円)相当に減っていたが、足元では1300億ドル(約15兆円)相当まで積み上げ、外貨準備の2割を占めている。ロシアより金保有量が多いのは米国、ドイツ、イタリアの3カ国だけだ。
ロシアは金やプラチナ、パラジウムを国内でかなりの量生産してもいるが、現在保有している金にはベネズエラのような友好国から提供されたものも含まれているかもしれない。2019年には、ベネズエラ中央銀行が保管していた金20トンが、カラカスの空港でロシア発のボーイング777型機に積み込まれたと報じられた。
(もっとも近年、金に傾斜しているのはプーチンだけではない。世界の中央銀行は過去10年に金の保有量を4500トン積み増している。)
ジョンズ・ホプキンス大学のスティーブ・ハンケ教授(経済学)は、ロシア中央銀行は通貨ルーブルの管理で高い能力を示してきたと述べている。ルーブルの対ドル相場は、ロシアがウクライナに対する軍備を増強しているここ数カ月は8%ほど下落したものの、2016年以来1ルーブル=0.013ドル前後の水準をおおむね保ってきた。
プーチンが資金を軍に振り向けてきたのは明らかだ。世界銀行のデータによると、ロシアの軍事支出はクリミア侵攻前年の2013年には900億ドル(約10兆円)に膨らみ、2020年は600億ドル(約6兆9000億円)ほどとなっている。この額は米国の2020年の軍事支出額7800億ドル(約90兆円)や中国の2500億ドル(約29兆円)に比べると少ないが、国内総生産(GDP)比では4%と両国よりも高い。
BNPパリバのデータによれば、プーチンが望めばロシアの軍事支出はさらに増やせそうだ。ロシアの公的債務はGDP比で18%、対外債務も30%弱にとどまっている。ちなみにウクライナの対外債務はGDP比で80%、米国では100%超にのぼっている。