まず故郷である沖縄にカフェを開店
実は、行動力に自信ありという山田は、神戸で「Tobira Cafe」をオープンする前に、故郷である沖縄でもカフェを開こうとしていた。
「とにもかくにも、とりあえずフイエ農園のコーヒーを出すカフェが必要だと思ったので、自宅近くの読谷村の建物の一角にDIYでカフェづくりをはじめました。すると、当時はまだ女子高生だったので、高校生がいったい何をはじめたのかという噂が村中に広がりました。
2020年9月に開店したときには、カウンターしかなかったのですが、近所の人たちが自宅で使っていないカップ、さらにテーブルやイスまで『これ使ってよ』と持ち寄ってきてくれました。いまでは年間6000人が訪れる人気のカフェになっています」
ただ、ルワンダのコーヒー豆を日本に送るのは、実際はかなり難しい。航空便だと1週間で届くが、送料があまりにも高額になるので、コストが安い船便を独自に確保しなければならないのだ。
だが、偶然の出会いがこれを解決した。山田は、2020年12月に、大阪府と元サッカー選手の本田圭佑をマネジメントする会社が主催する学生起業コンテスト「Little You 2020」で優勝した。
彼女のことを知った京都のコーヒー事業者が、フイエ農園と関係があるJICAの専門家を紹介してくれたのだ。その専門家を通じて、船便でコーヒー豆を日本に送る手立ても見つかった。
カフェの名前を「Tobira」にした理由
「Tobira Cafe」の第2号店となる神戸岡本店は、一般企業での就業が難しい障がいを持つ人たちが、簡単な調理や接客の訓練ができる就労継続支援B型の事業所でもある。この2号店のオーナーは、沖縄で「Tobira Cafe」を立ち上げた山田の考え方に共鳴して店をオープンしたのだ。
「Tobira Cafe」 神戸岡本店
確かにルワンダでも高い品質を誇るフイエのスペシャルティコーヒーを飲むと、農園従事者の生活改善につながり、加えて売上の5%がルワンダの貧困層に届くというのは、コーヒー好きでなくとも、この店に足を運ぶ理由になる。カフェ激戦区とされる岡本での出店だが、地元の人々からの共感も得たのだろう。毎日盛況が続いているそうだ。
「Tobira Cafe」ブランドの代表である山田は、全国から同様のカフェをつくりたいという相談を続々と受けている。すでに和歌山県白浜町のテーマパークや沖縄県那覇市の航空機整備会社の社員食堂に同ブランドのカフェが存在する。山田は最後にこう締めくくった。
「わずかな思いやりが少しのお金に形を変えるだけで、子どもたちの将来の選択肢が大きく広がります。そんな意味も込めて、思いやりを届ける入り口として『Tobira(扉)』をカフェの名前にしました。私1人では何もできないのですが、共感して応援してくださる方々に支えられています」
日本人にとっては、遠い国にも思えるルワンダ。その国の人々を身近に感じ、カフェを開くことで彼らの生活の改善をはかろうとしている山田。行動力だけではなく、どんな人たちとも共感し合える力が彼女には備わっている。その挑戦の続きを紹介する日もきっと遠くないはずだ。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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