大手の製薬会社は、すでにR-ケタミンに関心を持っている。2021年3月、大塚製薬は、パーセプション社のR-ケタミンを、治療抵抗性うつ病の治療薬として日本で開発・商業化するために2000万ドル(約23億円)を支払うことを発表した。大塚製薬は、パーセプション社が開発する「アールケタミン」の日本国内における独占的開発販売権を取得し、市場への投入に成功した場合、売上に応じたロイヤリティをパーセプション社に支払うことになる。
うつ病の処方薬の売上高は世界で年間500億ドルとされ、メンタルヘルス市場は年間約1000億ドル規模とされている。世界には1億人の治療抵抗性うつ病患者がいると推定されており、プロザックやゾロフトなどのセロトニン再取り込み阻害薬を置き換える可能性のあるアールケタミンには大きな市場が期待できる。
「私たちが興味を持っているのは、まだ満たされていない巨大なニーズやその市場だ」と、アタイ社のブランドCEOは述べている。
アタイ社はまた、マジックマッシュルームに含まれる幻覚を引き起こす成分のシロシビンを用いたセラピーを開発中の英国企業Compass Pathwaysの最大の出資元でもある。Compass社は、シロシビンを用いた特許取得済みの薬剤を、うつ病の治療に役立てようとしており、昨年11月にはこの薬剤を投与された患者に抑うつ症状の大幅な軽減が確認され、その効果が数週間に渡り継続したという臨床試験結果を発表した。
「2時間のトリップ」が特徴の新薬
アタイ社はさらに、別の子会社を通じて、従来の幻覚剤よりも幻覚作用が短い「2時間のトリップ」を特徴とする新世代のサイケデリック医薬品を開発している。
ブランドCEOは、サイケデリックな体験を伴う治療法は、幻覚作用の長さが一般に普及させる上での障害になっていると話している。「トリップを短くすれば、より多くの患者が治療を受けられるようになり、保険会社も積極的に治療をカバーするようになるはずだ」と、彼は話す。
ブランドをはじめとするサイケデリック医療に携わる多くの人々は、“ノー・トリップ・トリートメント(幻覚を伴わない治療)”がこの分野の将来に重要な位置を占めると考えている。
「私たちは、精密精神医学(precision psychiatry)のビジョンを持っており、最終的には、患者ごとに最適な治療法を見つけ出したいと考えている。すべての人がシロシビンのようなサイケデリック薬を使いたいとは限らない。ある人にとっては適切な治療法かもしれないが、すべての人に使用できる訳ではない」とブランドは話した。
アタイ社の最高科学責任者のRaoは、「未来は選択肢の中にある」と話す。治療抵抗性のうつ病患者に効果のある薬を見つけることは困難で、うつ病患者の約30%は、既存の治療法では効果が得られないと言われている。そんな中、アールケタミンが承認されれば、医師が使用できる新たなツールになる。
「病気のプロセスのどこにいるかによって、エスケタミンが必要になるかもしれないし、シロシビンやDMTなどの薬剤と組み合わせて、アールケタミンを用いることが有効かもしれない。しかし、すべてはまだ研究途上だ」とRaoは話した。