テクノロジー

2021.11.18 06:00

幻覚剤療法の有効性、脳撮像ヘルメットで検証 米で調査開始へ

Andriy Onufriyenko/Getty Images

米ロサンゼルスに本社を置くバイオテクノロジー企業カーネル(Kernel)が開発したヘルメット型の神経画像検査装置を使い、幻覚を引き起こす量のケタミンを摂取した際に脳内で何が起きるかを調べる調査が、米食品医薬品局(FDA)により承認された。

調査の資金は、カナダ・トロントの幻覚剤治療スタートアップ、サイビン(Cybin)が提供。ケタミンを使用した治療を提供するカリフォルニア州マリナデルレイの診療所で、患者15人を対象に年内に開始予定だ。

参加者は全員、2段階の調査を受ける。最初の調査では生理食塩水のプラセボ(偽薬)を投与し、ヘッドセット「カーネル・フロー」を使って基本的な神経活動を記録。2回目の調査では、カーネル・フローを装着した状態で、幻覚作用を引き起こす量のケタミンの筋肉注射を受ける。

サイビンのアレックス・ベルサー最高臨床責任者(CCO)は20年にわたり幻覚剤の研究を重ねてきた心理学者で、これまでにもうつ病や薬物依存、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害(OCD)の治療にサイロシビンやMDMAを使う臨床試験を実施してきた。ベルサーは、カーネル社製のヘッドセットを使うことで「初めてリアルタイムで意義のある測定ができる」としている。

幻覚剤がうつ病やPTSDなどのメンタルヘルス問題にもたらす効果の計測はこれまで、患者による主観的な自己報告に大きく依存してきた。サイビンとカーネルは今後、患者の脳データを活用することで、ケタミンやサイロシビンなどの幻覚剤がうつ病などの問題の緩和に役立つとみられる理由を解明しようとしている。

過去に行われた研究では、サイロシビンを使用した心理療法で、高用量の単回投与によりうつ症状がほぼ即座に緩和され、一部の患者の間では6カ月ほどにわたり抗うつ効果が見られた。脳の異なる部位の間の信号伝達も、幻覚剤の効果に寄与している可能性があることが示唆されている。しかし、こうした薬物の効果の有無とその仕組みを解明するには、より多くの神経学的データ、特に長期的なデータが必要だ。

カーネルは2016年、モバイル決済企業ブレーンツリー(Braintree)を創業し2013年にペイパルに売却したブライアン・ジョンソンが創業した。ジョンソンによると、カーネルは「脳のフィットネストラッカー」になることを目指している。

EEG(脳波記録)やPET(陽電子放出断層撮影)、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)などの脳画像技術は進歩し、性能が高まっているものの、高価で重く、患者は動かずに座っていなければならない。対してカーネルの装置は、自転車のヘルメットほどの大きさで、患者が自然に動き回る間も着用できる。ジョンソンは、十分なデータを集めることで、心臓や肝臓、腎臓などの臓器の健康度を測るのと同様に、脳の健康度を示す生体指標を特定できると期待している。

編集=遠藤宗生

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