シャンパーニュ、カルヴァドス、パルミジャーノ・レッジャーノって、な~んだ? 「そんなの簡単。スパークリングワインと、リンゴのブランデーと、チーズでしょ」とおっしゃるだろうか。
それで、もちろん正解。だが、この3つは同時に地域名であり、地理的表示(GI)、または原産地呼称(AOC、DOCGなど)を擁している地域ブランド品でもあるのだ。お酒に限定するなら、ボルドー(フランス)やキャンティ(イタリア)も同様。その地方で作られた製品で一定基準を満たしたものだけが、この名前を冠することができる。
日本でいえば、ワインのGIを擁しているのは山梨県と北海道、長野県、山形県、大阪府。ことに山梨県は日本ワイン発祥の地であり、ワイナリーの数は日本でいちばん多く、日本固有のブドウ品種である「甲州」の産地としても名高い「ワイン県」として知られている。
その山梨県が清酒においてもGI「山梨」を21年4月に取得。日本でワインと日本酒の2ジャンルでGIを取得したのは山梨県が初めてだという。日本酒のGIとしてよく知られているのは「灘の生一本」で知られる「灘五郷」(兵庫県)だが、山梨とは少々ダークホースでもあった。山梨の日本酒およびワイン生産の現場を訪れ、その魅力を肌で(いや喉で?)感じてみたい。
GI「山梨」の日本酒は南アルプス山麓、八ヶ岳山麓、秩父山麓、富士北麓、富士・御坂および御坂北麓の6水系いずれかの水で醸されている。これら標高の高い山々に降る雨雪が長い年月をかけて花崗岩や玄武岩などの地層でろ過され、適度なミネラルを含んだ伏流水となる
「山梨の日本酒を語るとき、欠かせないのは水の良さです」と語るのは、北杜市白州で1750年に創業した酒造業「山梨銘醸」の北原対馬代表取締役社長。「南アルプスの天然水」というCM(サントリー)でもおなじみの山梨は富士山、八ヶ岳などの名峰に囲まれた名水の地であり、その水の美味しさが日本酒の味わいにも大きく影響を及ぼしているのだという。
「ワインの味わいを左右するのはテロワール(気候・土壌)だと言いますが、日本酒は断然水が大切。美味しい水があってこそ、うまい酒が造れるのです」
米、米麹、水という日本酒の原材料のなかで、水が占める割合が約8割にも及ぶ。それだけに、水のクオリティはそのまま日本酒の出来に直結するのだという。
「七賢スパークリング」は全国のスパークリング日本酒のなかでも抜きん出たクオリティ。シャンパーニュと同じくトラディショナル製法(瓶内二次発酵)を採っている
「山梨銘醸」の代表銘柄のひとつでもある「七賢スパークリング」のなかから数種を試飲させてもらったが、どれにも共通するのは口中でまあるく広がるやわらかなテクスチャーと喉越しのクリスピーなキレの良さ。これはやはり仕込み水に由来するものだろう。そこに米の甘味・旨味が加わり、これは乾杯の1杯に終わらせてしまうのは惜しい酒だと感じた。