企業が倫理的マーケティングに取り組むべき理由についても考えてみよう。
2021年にオンラインで開催されたアメリカのEメールマーケティングカンファレンス「EMAIL INNOVATIONS SUMMIT」。ここで登壇したアクセシビリティー&ユーザビリティーコンサルタントのポール・エアリー氏のプレゼンが参考になる。
エアリー氏は「米国では成人の26%に何らかの障害があるため誰もがメールにアクセスできるようにすることで結果的に会社の投資収益率が向上する」と指摘している。
つまり、利益とは無関係に倫理的な文脈で語られることも多い「アクセシビリティー(利用の容易さ)の改善」だが、これが企業の利益に直結するという主張である。
同氏はさらに「そもそもマーケティング以前に、それが(企業にとって)正しいことだから」とも説き、アクセシビリティーの改善に取り組むことは、企業が果たすべき当たり前の社会的責任だというのだ。
そもそも企業はより良い世の中を実現するために存在している。だとするならば、消費者を騙したり、消費者から搾取したりするような、これまでの非倫理的な振る舞いこそが、異常だったと言わざるを得ない。
企業側と消費者側との情報格差が年々小さくなっていることも、マーケティング倫理を意識すべき理由には含まれる。これまでは消費者が重要な情報を獲得することはできなかった、これを「情報の非対称性」と言うが、企業側が重要な情報を抱え込んでいたのだ。その不公平な状況を利用して、うまく収益につなげていたわけだ。
いまは情報の透明化が進んでおり、かつSNSなどで情報が拡散しやすい環境ともなった。情報格差が小さくなっており、非倫理的なマーケティングアプローチで消費者から「搾取」するには、企業側のリスクはあまりに大きい。
ネトフリの親切で倫理的マーケティング
では、具体的に欧米企業の「倫理的な振る舞い」を見てみよう。
例えば、米動画配信大手「ネットフリックス」は2020年5月に、一定期間アクセスしていないユーザー(休眠アカウント)に対しメールでアカウントを解約するかどうかを確認し、反応がなければ自動的に解約すると発表した。
これまで多くの業界では、「レ点商法」、つまりチェックしたことを忘れた消費者に対しては課金していくということが行われていた。オンラインビジネスにおいても同様だ。
課金されるサブスクライバーをいかにして獲得し、いかにして解約率を下げるか、このことに各企業がしのぎを削っていた。結果、解約への導線をなるべくわかりにくくするという手法が横行した。
そんななかでネットフリックスは、「休眠アカウントですけど大丈夫ですか?」という趣旨のお伺いを立ててくれて、なおかつリアクションがなかったら親切に解約もしてくれるのである。ここまでやることで、顧客のエンゲージメントは高まり、企業イメージも向上する。まさに顧客に寄り添った倫理的なマーケティングだ。