でもここで気をつけたいのは、身の丈にあうからといって、比較対象である母集団を小さくしすぎないことです。
例えば、福岡ソフトバンクホークスの選手評価体制をデザインする場合、当然、ホークスのスカウトによる、ホークスのチーム編成のためのシステムですよね。だから基準もホークスの普通、と設定してしまえばいいのでは、と思うかもしれませんが、これには危険性があります。なぜでしょう?
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この場合、“ホークスだとエース”、“ホークスだと二軍”などという基準に沿って評価することになり、評価する側としては、とても具体的でやりやすくはなります。勝手知ったる、自球団のチーム状況を思い浮かべながら、この選手と比べると... と考えればいいわけですから。
でもこれだと、基準が短期間でぶれる可能性が高い。たまたま、千賀選手というとても優秀なピッチャーがいる場合の“エース級(千賀選手と同レベル)”という評価と、移籍や故障や引退などで千賀選手や他の投手もいなくなり、弱体化している時の“エース級”では、全然力量が違います。物差しの長さが急に伸び縮みしてしまうのです。
従って、ホークスのための評価体制であっても、基準の母集団は“日本のプロ野球の平均的なチーム”などとするのが適当でしょう。
評価の物差しは変化する。
もちろん、未来永劫変わらない物差しなんて存在しません。普遍的で変わりづらいけど漠然とし過ぎていて分かりにくい基準ではなく、かといって、分かりやすいけどあまりに具体的過ぎてすぐに変わってしまう基準でもない、ちょうどいいバランスが求められます。評価の「枠」を作る時のバランスと一緒です。
メジャーリーグ球団のスカウティングの基準は、どうなっているでしょうか。多くの球団は“20-80”という評価システムを採用しています。20から80とは偏差値のこと。この50を“メジャーの平均(上位50%)”として、明らかに上なら60(上位31.7%)、極めて優れていれば70(上位4.6%)、最上位クラスなら80(上位0.3%)、などと定義します。この選手のスピードは60、守備は40... という風につけていくのです。
ではこのシステムの評価者、つまりスカウトは、一体どうやってメジャーリーグの守備範囲の平均が分かるのでしょうか。美容師の技術の平均って? 俳優の表情の豊かさの平均は?