一方、旅行や観光など、大きなダメージを受けた産業も、一時的に制約がかかっているだけで、コロナ収束後を見据えた準備を進めていれば、一気に挽回できる可能性がある。
とくにスタートアップでは、DXの追い風のど真ん中にあるSaaSビジネスを展開する起業家が著しく増えている。これまで主流だった人事や会計、顧客管理などのバックオフィス業務系に加えて、近年は製造業向け、建設業向けといった特定産業向けのSaaSにまで裾野は広がっているが、同時に競争も激化。審査員を務めたインキュベイトファンドの村田祐介は、「これまで以上に経営者の力量が問われている」と話す。
「いいプロダクトをつくることはもちろんだが、自分たち自身が積極的にデジタルを実装して知見やノウハウをためるなど、実際に顧客の業務変革を遂行する力が求められる」。
設立後経過年数別の資金調達額中央値と調達社数の推移
「1年未満」、「1年以上3年未満」ともに資金調達額の中央値は増大しているが、調達社数は直近の2年間で大幅に減少。投資家によるスタートアップの「勝ち組」の選別が進んでいる。(出所:INITIAL)
また、社会課題の解決に向けた要請は世界中で日増しに高まっており、村田は「最近では国内のVCもSDGs/ESGの視点を当たり前のように取り入れるようになってきた。政府の方針も相まって、カーボンニュートラルなどの領域では尖ったスタートアップが生まれる可能性がある」と期待する。
今回のRising Star Awardの審査には、こうした潮流が如実に反映された。再エネで脱炭素化を目指すアスエネと、不動産DXで業界の働き方を変えるTERASS。審査員を務めたSBIインベストメントの加藤由紀子は、「社会の大きな方向性に向き合っている会社と、テクノロジーを活用して産業の課題を解決する会社。これからの世の中を象徴するような起業家が現れてきた」と評価した。
Forbes JAPAN創業者の高野真(左)と再エネで脱炭素化を目指すアスエネの西和田浩平氏(右)
もうひとつ、国内のどの有力な投資家に聞いても、口を揃えることがある。「数年前と比べて、明らかに起業する人の数は増え、レベルも上がっている」。起業家たちが切磋琢磨しながら未来を切り開いていく舞台は整った。日本の未来は明るい。
高宮慎一◎グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。アーサー・D・リトルを経て現職。東京大学経済学部卒。ハーバード経営大学院MBA。2018年「JAPAN’s MIDAS LIST」第1位。
村田祐介◎インキュベイトファンド代表パートナー。エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現 大和企業投資)を経て2010年にインキュベイトファンドを設立した。2017年「JAPAN’s MIDAS LIST」第1位。
加藤由紀子◎SBIインベストメント執行役員CVC事業部長。18年にわたるベンチャーキャピタリスト経験を有する。2015年の「JAPAN’s MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)」第1位。