今年5月に設立されたゼロイチキャピタルなど、有力なVCで経験を積んだ投資家が独立するケースも増えている。また、上場やM&Aでエグジットを果たした先輩起業家が、エンジェル投資家となって後輩たちに出資する動きも活発化しており、スタートアップ・エコシステムの循環が進んでいるのだ。
一社あたりの調達額が膨らんでいるのは、投資家サイドだけでなく、起業家サイドにも要因がある。そのひとつが、エンジェル投資家と同等に、シリアルアントレプレナーが増えていること。例えば、Loco Partnersの創業者である篠塚孝哉が新たに設立した令和トラベルが、21年6月に22.5億円を調達したことは記憶に新しい。また、既存産業が根深く抱えている課題の解決に挑むスタートアップが増えている。
産業特有の課題をあぶり出し、プロダクトに落とし込んでPMFを推進するには相応の資金が必要になるという事情もある。今回のRising Star Awardを受賞したアスエネも21年3月に3億円、TERASSは同2月に2.2億円を調達している。
審査員を務めたグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一は、「5年前であれば、貴重な資金をいつ、どのように使うかが戦略上の重要事項だったが、現在では、マネーの力でいかに成長スピードを加速させて勝ち切るかというゲームになってきている」と指摘する。
「これまでのように着実にやろうとすると、スピード感のある競合に抜かれてしまう。ブリッツ・スケール(爆発的成長)どころか、スーパー・ブリッツ・スケールが必要とされる。自社の絶対値としての成長だけでなく、競争を踏まえて成長を考えなくてはいけない、スタートアップ間の大競争時代の幕が明けた」。
emolの千頭沙織氏
「勝ち組」になるためには
実際、見逃せないデータがある。それは、調達総額や1社あたりの調達額は伸びていても、調達社数は伸びていないということだ。INITIALの調査によると、20年に資金調達を行ったスタートアップの社数は、設立1年未満が294社と前年比で半減、1年以上3年未満は472社と同2割減少した。投資家による「勝ち組」の選別が進んでいる。
では、創業3年目以内の起業家がチャンスをつかむためには、どんな要素が必要か。高宮は、「いまの時代に重要なのは、根源的に変わらないことと、表層で起きている大きな変化の双方を的確にとらえることだ」と指摘する。「コロナ禍は社会全体が変わるトリガーになったが、人々の行動変容が起きたところで、根源的なニーズは変わらない。そうしたニーズに対して、変化に合わせたかたちでサービスを提供することが求められている」。
Pale Blueの浅川純氏
例えば、外食には大きな制約ができたが、プロの料理人がつくったおいしい食事を食べたいという人々の欲求がなくなったわけではなく、デリバリーやシェフの出張サービスが大きく伸びている。また、デジタル化の流れが一気に加速したが、そもそも効率化・自動化といったニーズは普遍的であり、コロナ禍はその起爆剤になったにすぎない。