周囲にどれだけ敬意を払えるか。役所広司のオーラのつくり方

Anthony Kwan/Getty Images

映画に、ドラマに、CMに、まさに日本を代表する俳優の1人、役所広司さん。俳優としてさまざまな賞に輝いた実績も有しています。

1997年には、出演した「うなぎ」(今村昌平監督)がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。世界でも知られる存在となり、2006年の「バベル」(アレハンドロ・イニャリトゥ監督)などハリウッド映画にも出演、海外でもその演技力は高く評価されています。

私は以前、ある時代劇の映画公開に合わせてインタビューをさせてもらったのですが、テレビやスクリーンで耳にする、あの低く渋い声がとても印象的でした。

そのときの役所さんは「時代劇には特別な思いがある」と語っていました。

「侍に憧れているんですよ。ストイックに己の理想を追求する。誇りというものを持っている。何かを命をかけて成し遂げようとする。そんな侍と同じ血が流れていると思うだけでうれしくなるんです。

いまは時代が変わってしまいました。現代で、侍のように生きるのは難しい。ただ、侍を演じることによって、祖先の気分を味わうことができるわけですよね。日本人が時代劇を好きなのは、こんな祖先がいたんだとあらためて教えてくれるからだと思うんです」

もともと時間にルーズな人間だった


役所さんは、かつて千代田区役所土木部道路課に4年間勤務していたことがあり、それが芸名の由来になっていることは、よく知られています。

1956年生まれ。高校卒業後、一度東京を見てみたいと故郷の長崎を後にして上京します。ところが、都会での勤め人生活にはなじめませんでした。まさに「どん底」の状態だったとき、同僚に舞台のチケットをもらいます。それが俳優座の公演、マキシム・ゴーリキー作の「どん底」でした。

役者たちの演技に感動し、以来、いろいろな舞台を見て歩き、仲代達矢主宰の無名塾の塾生募集の広告に出会います。そのときの履歴書に書いた自己紹介が後に明かされています。

<顔は長くてごっついが、心はまろやか優男。人の難儀を見たならば、一文なしでも助けにいく。それが僕です>

そして演劇の経験などまったくない素人が、200倍の難関を突破して無名塾に入塾するのです。これは本当にうれしかったといいます。
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文=上阪 徹

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