経済・社会

2021.12.21 12:00

「最悪の状況」を危惧する声も 対岸の火事どころではないウクライナ情勢


一方、緊迫するロシア・ウクライナ情勢を横目に、日本はどうしているだろうか。松野博一官房長官は米ロ会談直後の8日、記者会見で「国際社会における重要なプレーヤーである米ロの首脳が直接話し合うことが重要であり、日本政府としても引き続き今後の動向を注視してまいりたい」と述べた。英国リバプールで今月行われた主要7カ国(G7)外相会議でウクライナ問題が話し合われたが、12日に行われた林芳正外相の記者会見で、ウクライナ情勢が話題になることはなかった。外務省幹部の1人は「担当部局はもちろん注視しているが、どうしても省全体の関心は高まらない。今、省内の視点は中国に集中している。東京から在外公館に飛ばす指示も、任地で中国がどう動いているのか、中国がどういう評価を受けているのか、という内容が圧倒的に多い」と語る。

では、ウクライナ情勢と中国はどのような関係にあるだろうか。自衛隊の一部には、ロシアがウクライナに軍事侵攻した場合の「最悪のストーリー」を警戒する声もある。自衛隊関係者は「欧米の視線がロシアとウクライナに釘付けになった状況を利用し、中国が台湾や南シナ海で新たな挑発行動に出るかもしれない。台湾本島への侵攻はないだろうが、サイバー攻撃や領空侵犯などの挑発はあるかもしれない。1月から2月にかけては緊張せざるをえない」と語る。

兵頭氏は「ロシアにとってのウクライナ問題、中国にとっての台湾問題は似ている。どちらも、米国の対応を見極める試金石になるからだ。中国は今、ウクライナ情勢で米国がどういう反応をするのか、注視しているだろう」と話す。プーチン大統領と中国の習近平国家主席は15日、オンライン形式で会談した。ロシア大統領府によれば、プーチン氏が7日の米ロ首脳会談の結果を習氏に説明したとしており、ウクライナ情勢について意見交換したとみられる。兵頭氏は「ロシアも中国も、お互いに相手を自分の紛争に巻き込もうとするだろう。特に中国は台湾問題に、ロシアの核抑止力を政治利用したいと考えているはずだ」と語る。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、今年1月時点の各国が保有する核兵器の数は、米国が5550、ロシアが6255、中国が350となっている。米国防総省は11月に発表した報告書で、中国の核弾頭保有数が2030年までに少なくとも1000発になると見通したが、米ロの保有数とは依然開きがある。台湾有事の際、「使える核兵器」の開発を進めているロシアがからんでくれば、日米にとっては更に深刻な状況が生まれる。

兵頭氏は「地理的に遠いと思われているが、ロシアは海を隔てて日本の目と鼻の先にある。日本は米国を中国問題に集中させたいと考えているが、米国がきちんとウクライナ問題に対応しないと、台湾情勢に影響する。日本は北方領土問題だけでなく、もっとロシアの動向に注意を払うべきだ」と語った。

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文=牧野愛博

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