モノづくりと拡大成長は相いれない?「質の継続」を追求する企業の価値

illustration by Ryota Okamura

資本主義が転換期を迎えるなか、全国のモノづくり企業に寄り添ってきたマクアケ創業者が、京都の企業から得た気づきとは。好評連載第13回。


ありがたいことに、事業を通じて日本中のモノづくりの現場に伺わせていただく機会に恵まれている。多くの会社が何代も前から続く企業ばかりだ。彼らと話していると、世の中の資本主義ルールへの違和感がどうしてもついて回る。

一義的には言い切れないだろうが、世界の資本主義は「企業の半永久的な拡大成長」が歓迎されるものだ。同時に、インカムゲインよりもキャピタルゲインに重きを置くルール設計がどんどん強まっているが、それ自体をまったく否定もしなければ、むしろそういった経済システムに我々も大きくお世話になっており、とても合理的なシステムだと思う。

ネットワーク効果が事業に寄与するオンラインのプラットフォーマーや、規模による低価格実現が価値になるような事業など、規模拡大がそのまま事業としてのミッションやビジョンにつながるものは、規模の拡大追求は意味のあることだろう。一方で、ある地方のモノづくりブランドの会社経営者からは、オンラインプラットフォーマーであるマクアケの事業についてこう評価されたことがある。

「中山さんの事業は規模拡大がそのまま価値になるから、シンプルに拡大を追うことが正義になっていいよね」

その会社の場合、売り上げが5億円を下回ると、従業員がマイホームを買える程度の水準の給与支払いが難しくなる。ところが10億円を超えると、高品質なメイド・イン・ジャパンを諦め、質を下げるかたちで海外工場への発注をせざるをえなくなる。そのため、シンプルに規模を追うことはしないのだという。つまり、売り上げのスイートスポットの範囲内で丁寧に事業を続けていき、付加価値を高めていくことが大切だ、と。

拡大一辺倒が正義となりがちな資本主義の論理とはかけ離れているが、そういった会社があることで、高品質なこだわり品を国内外の生活者が手にすることができるのも事実だ。質も規模拡大も両立させてこそ経営だという意見もあるだろうが、そうではない経済圏や資本主義システムも存在しうるべきだと、あらためて考えさせられた。

幕末、大戦、そしてウイルス


実際に、仲よくさせてもらっている京都の和傘老舗「辻倉」当主の木下基廣に、新型コロナ禍において状況はどうかと聞いてみた。

「辻倉は元禄から続くので、幕末もありましたし、世界大戦もありましたからね。私の代ではウイルスなのかもしれませんね」

時代を超越する、何とも壮大な話だ。極端な例かもしれないが、拡大ではなく「続けていく」能力を高くもつ証しだろう。

京都で多くの事業プロデュースにかかわる企画会社クリップの代表取締役・島田昭彦が、京都の街を歩きながら教えてくれた。「京都では拡大ではなく、続けていくことに大きな価値をおく。だからこそ世界から認められる、時代を超えてきたよさがあるんだ」

事業を続け、磨き上げていくことを中心にした価値を、現在の資本主義で評価するのはなかなか難しい。ただ、生活者のこだわりを満足させる品質でモノをつくり出せる会社がこれだけ多く存在する日本という国は、世界目線で見るとやはり珍しい。オンラインで誰もが事業を始められる時代になったからこそ、「つくれる」ことの価値が高まるのではないだろうか。

日本の価値を最大化させるためにも、新しい資本主義システムの尺度を考えていきたい。それが世界的なサステナブル思考にもつながれば、日本はこれからの時代の新しい経済ルールメーカーになりうるはずだ。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。

文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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