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2021.11.01

収入を増やさないほうが得をする、米国の社会保障制度

rehoboth foto / Shutterstock.com

米国労働省が2021年10月に公表した9月の雇用統計は、見るに耐えない内容だった。9月の新規雇用者はわずか19万4000人で、アナリストが予測した50万人を大幅に下回ったのだ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行直前だった2020年2月と比べると、現在の就業者数は500万人少ない。公式な失業者数は770万人だ。他にも仕事を求めている人は600万人いるが、積極的に職探しをしていないため、失業者としてはカウントされていない。

にもかかわらず、求人数は記録的な多さに上っており、全米各地の雇用主は、給与額を引き上げてもなかなか欠員を補充できずに苦労している。

労働市場で、いったい何が起きているのだろうか。

ひとつの問題は、新型コロナウイルス感染症への恐怖心かもしれない。しかしより重要なのは、働く者を罰し、働かない者に報いる連邦政府の政策だと思われる。長期的に見た場合はまさにそうだ。

ある人が「働くこと」を選択した場合に、米国の財政制度は2つのかたちで影響を及ぼす。まずは、所得税と給与税(社会保障税や失業保険など)を納めることで、手取り額が減ること。そして、連邦政府が実施している社会保障制度は30以上あるが、世帯収入が増えるにつれてその給付額が減ることだ。

個人の権利という点でも、相互作用という点でも、社会保障制度は複雑であるため、インセンティブ効果を見きわめる研究は、途方もないほどの大仕事だ。おまけに、そのインセンティブ効果は現在に限定されるわけではない。いま稼いだそのお金は、何年にもおよぶ退職後の生活を支える社会保障や医療などの給付を左右するのだ。

ありがたいことに、ボストン大学の経済学教授ローレンス・コトリコフは、他の研究者とともにこの難題に取り組み、さまざまな年代と所得水準の世帯別に、すべての税制と社会保障制度がもたらす生涯インセンティブ効果を算出した。

その結果は考えさせられる内容だった。研究によると、所得分布の下位5分の1に属する20代の労働者は、収入が1000ドル増えた場合に、給付金の減額と税金で770ドルの損失を被ることになるのだ。実質的な限界税率(課税標準の増分に対する税額の増分の比率)は77%で、他のどの所得層よりも高い(たとえば、上位1%の場合は44.5%だ)。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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