中間所得世帯でさえ、働くことで非常に大きな罰を受ける。所得分布の第3四分位に含まれる20代の労働者の場合は、収入が1000ドル増えると406ドル損するのだ。
ただし、こうした数字は平均にすぎず、もっと不利な世帯もいるかもしれない。研究によると、所得分布の下位5分の1に属する20代は、収入が1000ドル増えると、社会保障給付金が最大で2万996ドルも減る可能性がある。
コトリコフは例として、オレゴン州在住で3人の子どもを持ち、年収が3万7157ドルというシングルマザーを挙げている。彼女は1年間に、フードスタンプで1334ドル、連邦政府の家賃支援制度セクション8で1万5015ドルの割引、医療保険制度改革(オバマケア)の補助金1万1372ドルなどの給付を受け取る資格を持つ。ところが、彼女の収入が1000ドル増えれば、セクション8の受給要件を満たさなくなり、資格を維持できなくなる。つまり、現在の価値にして18万4456ドルもの家賃支援を生涯にわたって失うことになるのだ。
シカゴ大学ベッカー・フリードマン研究所が発表した新しい研究によると、各世帯が労働パターンを変えない場合、民主党が現在推し進めている「児童税額控除(CTC)の拡充」が実現すれば、子どもの貧困は34%減少、深刻な子どもの貧困(現金収入が貧困線の半分に満たない深刻な貧困世帯の子ども)は39%減少する。
この研究論文では、世帯の労働パターンが変わった場合の、子どもの貧困に与える影響もシミュレートしている。それによる著者の推定では、今回のCTC拡充によって、労働者150万人(仕事を持つ親全体の2.6%)が労働市場を離れると著者は推定している。雇用の減少と、それに伴う収入減少で、「子どもの貧困の減少率は22%にとどまる。深刻な子どもの貧困にいたってはまったく減らない」とのことだ。
シカゴ大学の経済学教授ケイシー・マリガン(Casey Mulligan)はおそらく、CTC拡充などが含まれた民主党の財政調整措置(リコンシリエーション)による歳出法案の2400ページに及ぶ内容すべてに目を通した数少ない人間のひとりだろう。そのマリガンは次のように述べている。
「この法案が成立すれば、潜在的な雇用と所得税の影響で、限界税率はおよそ7ポイント引き上げられるだろう。そうした阻害要因の変化で、フルタイム換算雇用はおよそ4.5%減少すると私はみている。これは、約700万人分の雇用に相当するものだ」
経済学では、インセンティブの重要性を説いている。インセンティブが相反すればするほど、ますます裏腹な結果を招くのだ。