名付けは世界がライバル
ちょっとしたスーパーにも何万点もの商品が並ぶ今の時代には、企業が売りたい商品をお客に知ってもらうのも一苦労で、中身が分かればいいという説明調では他の商品の海に溺れてしまい、すぐに忘れ去られ棚にも並べてもらえなくなる。
売り上げ不振を改名で脱した商品も多い。伊藤園の「缶入り煎茶」が「お~いお茶」に、サントリーの「WEST」が「BOSS」にと、目立ちかつ親近感を抱かせることで一躍ヒットした事例が有名だが、最近は、表面が黒く変色したが味に問題ないトマトをスター・ウォーズのデス・スターになぞらえて「闇落ちとまと」と命名したら、ネットでバズって大人気になった新潟の曽我農園の話も出ていた。
ネット時代にはオンラインショップで世界中のありとあらゆるものが買えるようになり、地域や国も超えて、多種多様のライバルと闘っていかなくてはならなくなった。そこでもまず名前を憶えてもらわないとアクセスさえしてもらえない。いままでの市場規模を超えた世界でのネーミングのコンサルビジネスも増えてきた。
一般人が新しい名前を考えるのは、子どもやペットに対してが関の山だが、プロが商品名や店名などを付けることになれば、商標登録などで他と紛らわしい名前が付けられないので命名には苦労する。しかし人が考えそうな言葉は多かれ少なかれどこかで使われている。それをチェックするには昔は手間がかかったが、現在は世界中の言葉の入った超巨大百科事典のようなグーグルなどの検索サイトに打ち込めば一発で有無が判明する。
世界で一つだけのユニークな名前を創造するのは難しそうだが、ネットの一般利用が始まった頃に、ネット上ではただ一つではないとならない番地(IPアドレス)の無機質な数字の羅列を、誰のどういう性質のものかを通常の言葉に読み替える「ドメイン名」を巡る論争が勃発していた。
頭のいい誰かが、いち早く「Coca Cola」などの有名企業の名前を勝手に先に登録していて、その企業に売りつけるという事件が多発した。名前と実態が一致しないドメイン名を付けては、利用者が混乱するばかりか、最近の銀行名を語ってお金を振り込ませる、フィッシングなどの詐欺行為にもつながりかねない。
当時はネットはオタクが使っている趣味程度の存在としてしか認識されておらず、企業などが自社の名前のドメイン名を押える必要などまるで感じなかったが、それが急激な普及で社会インフラ化して、死活問題や社会問題にまでなるとは誰が予想しただろうか?