名付けることは理解することの第一歩
東京都庭園美術館で開催中の「英国王室が愛した花々」展には1759年に作られた王立庭園のキューガーデンが所蔵する、数々の珍しい植物のスケッチが展示されている。18世紀は啓蒙時代とも言われ、百科全書派などが知の体系化を推進し、科学革命の成果が自然の体系化や博物学・生物学の誕生につながったとされる。
15世紀以降の大航海時代に世界の隅々から集められた、見たこともない珍奇な動物や植物は、王族や貴族のコレクションとなったが、こうして広がった自然観を科学的に分類し体系化する動きが18世紀には活発になった。
カール・フォン・リンネ(Prachaya Roekdeethaweesab / Shutterstock.com)
その象徴のように言われるのが、スウェーデンのカール・フォン・リンネの分類学だ。彼は集められた動植物の形態的特徴を元に、生物世界を階層的に体系化し、属と種を表すラテン語2語で命名していった。
それまでは個々の生物種を指す言葉は共通のものではなく、国や地域独特の固有の呼び名で知られているだけで、例えばいまでは「カシの木」と共通に呼ばれている木が、ある村では「裏山の頂上にある一番大きな木」とか「秋になるとドングリができる木」とかいうバラバラに地域の生活感覚で名付けられていたため、共通のものとして扱うことができなかった。
しかし、未知のさまざまなものを命名するということは、それを意識に上らせて論議する基本であり、逆に名前のないものは論議の対象にもならない。ミシェル・フーコーは『言葉と物』の中で、こうした博物学の命名体系は言語そのものの起源とも対応するとしている。名前を付け辞書を作り、知識を共有したところから学問も始まる。
そして命名によって名指しされた自然の事物は、次にはその相互の関係を文法の修辞法のように規定された学問体系へと進化していく。そうして名指しされたものたちの見えない関係や意味が浮き上がっていくのだ。
ほとんどすべての社会活動がネット経由になり、いまやインターネットの中を流通するデータ量は、(米Cisco社の2017年の予測では)2021年には278エクサバイト(EB:100京バイト)に達するとされ、検索サービスを使わないで情報を探し出すことは不可能だ。グーグルが扱うキーワードも50億を超える。