テクノロジー

2021.10.04 12:30

脈波から暑熱リスクを把握 新技術を開発できた理由

ミツフジ代表取締役社長 三寺 歩

ウェアラブルIoTのミツフジが、脈波の情報から暑熱リスクを推定できる世界初のアルゴリズムを開発した。2021年5月には同技術を採用したリストバンド型ウェアラブル「hamon band」を発売。脈波から熱中症につながる深部体温の上昇変化を推定し、症状が起きる前に暑熱リスクとして利用者にアラートしてくれる仕組みだ。

「あまり表に情報は出ませんが、実は熱中症で亡くなってしまう労災事故はすごく多いんです」と代表取締役社長の三寺歩は語る。暑熱リスクのある場所で働く従業員に、適切なタイミングでの休息や水分補給を促すことができる利点が評価され、hamon bandは製造業や建設業など100社以上が導入を決めている。

ミツフジが脈波情報を用いた世界初の技術を開発できたのは、これまで質の高い生体データを取得・活用する知見を培ってきたからにほかならない。元をたどれば、14年に社長就任した三寺がウェアラブルIoT事業にかじをきったのも、先代が開発した導電性の高い銀メッキ繊維を技術転用すれば、「布のIoTセンサー」としてきめ細やかな生体データを取得できると気づいたからだった。

「いい糸を使っているから、いいデータが取れて、いいアルゴリズムがつくれる。このアルゴリズムを応用したからこそ、今回、高い正確性を実現できたのです」と振り返る。

実は、得意分野である着衣型ウェアラブルでは、心拍の情報をもとに深部体温の上昇変化を推定する技術を開発済みだった。それでも新たに脈波情報を取得するバンド型に挑んだのは、利便性を考慮したからだ。現場で働く人たちに、毎日、着衣型のウェアラブルを使ってもらうのは負担が大きい。

「本当にこだわるべきなのは、得意分野なのかどうかではなく、課題の解決に取り組むこと」と三寺は語る。

「過去をいい意味で否定して、そこで培ったものを生かせる別の畑に挑戦する。これが僕たちの進化の仕方なんです」


みてら・あゆむ◎1977年、京都府生まれ。立命館大学経営学部卒。松下電器産業(現パナソニック)、シスコシステムズ、SAPジャパンを経て、14年より現職。「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD 2018」ではグランプリを受賞。

文=眞鍋 武 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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