「我々は、コンピューターチップがデータを取得するように、衣類に織り込んだセンサーからデータを取得しようとしている。そのようなセンサーを作るための素材や製造方法、デバイスを開発し、特許を取得した」とNextilesの共同創業者でCEOのショージ・サン(George Sun)は話す。
サンはマサチューセッツ工科大学で博士号を取得後、テックスタートアップのNextilesを設立した。同社は、ニューヨークのアパレル産業が密集するガーメントディストリクトに本拠を置き、繊維産業を最新テクノロジーで活性化させたいと考えている。
「我々が使う糸はミクロン程度の細さではなく、通常の糸のように目に見える。糸を通る信号が見え、まるで血管のようだ」と、サンは話す。
現在のところ、同社のスマート繊維の主な用途はスポーツ分野だという。Nextilesは、メジャーリーグMLBとプロフットボールリーグNFLと提携し、スマート繊維を使った衣類やコンプレッションウェアを選手に提供している。この繊維は選手の動きや圧力、屈伸、トルク、捻じれなどの動きに関するデータを取得し、選手は目標値を設定したり、避けるべき動きを把握できる。
「加速度計を使うと間接的なデータになってしまう。自転車にセンサーを付けてスピンすればデータを取ることができるが、体が発する力を直接測定するのとは大きく異なる。我々は、体から直接データを取得することを目指している」とサンは話す。
野球は多くのデータを活用するスポーツだが、布地に織り込んだセンサーによってさらに高いレベルに発展させることができる。例えば、トレーナーやコーチはピッチャーの腕の角度が変化したことや、キャッチャーの膝にかかる負担、スラッガーのスイングがホームランを打つ最適な角度からずれていることなどを把握することができる。
アップルウォッチより安価なスマート衣類
データを蓄積するとパフォーマンスとの相関を調べることができ、アスリートはトレーニングや練習の効果を評価することが可能になる。
Nextilesのスマート繊維は、2022年か2023年には消費者の手に届く価格になりそうだ。Sunによると、通常のTシャツよりは高いがアップルウォッチよりは安い価格になり、ゆくゆくは完全に衣類に織り込まれたものになるという。
現状、Nextilesのスマート衣類には、データをアプリに送信するためのBluetoothや小型バッテリーを内蔵したプラスチック製ビーズが使われている。しかし、将来的にはユーザーの動きや熱から必要なエネルギーを得ることができるようになるという。
「圧電材料の使用を検討している。足を踏みつけたりステップを踏むたびに少量の電気が発生し、それを蓄積することができる。将来的に、ユーザーの動きでエネルギーを発生させ、バッテリーを駆動させることができる」とサンは述べた。
もしかしたら、Nextilesは電波で発電するバッテリーレスのBluetoothタグを開発した「Wiliot」のような企業と提携するかもしれない。そうなれば、真にウェアラブルなテクノロジーが実現するだろう。