デジタルマネーは不平等を悪化させる? 低所得層への普及が課題に

Petri Oeschger / Getty Images

決済カードや電子マネー、デジタル通貨など、デジタルに取引されるお金を誰もが利用できるようになっていないと、不平等を悪化させる──。ブルッキングス研究所のアーロン・クライン上級研究員(経済研究)は、新たな白書のなかでこんな見方を示している。

米財務省の経済政策担当副次官補や米上院銀行委員会の主任エコノミストを務めた経歴をもつクラインは、「すべての人がほとんど、あるいはまったくコストをかけずにデジタルマネーを利用できるようにする方策を、政策当局者は考え出す必要がある」と訴えている。

クラインによると、デジタルマネーはとくに、アプリなどを使うオンライン経済で新しいテクノロジーにアクセスする際に障壁となる。そのため、米国の低所得層がデジタルマネーを利用できない状態は、既存の不平等をさらに悪化させ、健康をはじめとする分野で、所得が比較的低い人たちが一部のテクノロジーを活用するのも妨げる可能性が高い。

クラインは、貧しくてデジタルマネーを使えない人は健康も害する懸念がある。デジタルマネーが利用できないと、新たなパンデミック(感染症の大流行)が発生した場合などの対応で支障をきたすとみられるほか、健康増進を目的としたオンライン健康サービスを使うのにも、デジタル決済に即時アクセスできることが必要になることがあるからだ。

低所得層がデジタルマネーを利用できない状態は、とりわけ子どもにとって深刻な問題になるおそれがあるともクラインは指摘している。

クラインによると、新型コロナの経済対策では米政府が迅速で安価なデジタル給付をすることができなかったため、推定で対象世帯の最大20%が最初の月の支払いを銀行口座で直接受け取ることができなかったという。

「パンデミックへの対応では、緊急に支援を必要としている人たちに支援を届ける時間の重要性が浮き彫りになった」とクラインは記す。「郵送で小切手が届くと約束するだけでは、飢えた子どもたちを食べさせることはできない」

クラインは、銀行では普通、小切手の預け入れでは利用者に直接コストがかからないが、それを現金として使えるようになるまでに数日かかることがあるのに対して、小切手の換金業者を使う場合は、手数料はかなり高いものの、すぐにお金を使えるようになると説明。小切手から小切手へと収入ぎりぎりの生活をしている人たちにとっては、まさに「時は金なり」だと警鐘を鳴らしている。

編集=江戸伸禎

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