ビジネス

2021.09.27

東大、ボスコン、デロイトを経たエリートが「マンホール」事業に挑むワケ

ホール・アース・ファウンデーション CEO 森山大器


では、インフラ管理に市民を巻き込むとどうなるだろう。社会課題を可視化することで市民ひとりひとりに課題を認識してもらい、そのソリューションに繋がる行動にインセンティブを与える。このアプローチを用いた結果、今回のマンホール事業では、よりリアルタイム性のあるリッチな情報を入手することが可能になった。まさに、新しいシステムだ。

そもそも、森山氏には、一生を通して「既存の常識を疑い、新しい常識を創りたい」という軸がある。東京大学で物理を学び、ビジネスの世界へ。数々の名だたる企業でコンサルタントとして活躍し、アメリカのデザインスクールへ留学。その後、Deloitteを経て、WEFの創業に参画した。

異なるタイプの人と人の掛け合わせのみならず、物理、経営コンサル、デザインという、異なる分野のキャリアの掛け合わせも、新しいものを生み出し、新しい常識をつくるキーになると言えそうだ。

名だたる企業で活躍したがコンサルが、今インフラ事業に取り組むわけ


森山氏は、ボストンコンサルティンググループやデロイトなどの有名企業で働き、イスラエルに駐在するなど、世界をまたにかけて活動してきた。では、なぜ今、日本の、地域に密着した、足元にあるマンホールから社会を変えようとしているのか。

その理由のひとつとして、自身が佐賀県出身であることを挙げた。森山氏に限らず、WEFのメンバーには地方出身者が多い。都心部と異なり、人口減や財政難によってメンテナンスされていないインフラは身近だった。

コンサルタントとしての知識や経験を得た今、どのような分野であっても最低限は食べていける自信がついたという。そうなると、本当に自分がしたいことを選べるようになった。そこで思い浮かんだのが、故郷のインフラ環境が整っていない風景だったのだ。

マンホールは、日本に1400万〜1500万あるといわれている。しかし、そのうちの300万個はすでに耐用年数を過ぎているにもかかわらず、いまだ交換されていない。そのうえ、耐用年数が過ぎたマンホールの割合は、年々増加している。

マンホールを製造する企業は品質に磨きをかけ競争力を高めているが、そことは違う次元の課題が浮き彫りになった。企業間の競争ではなく、まずはパイを広げることから始めなければいけない。

森山氏は「その時、ひょっとしたら僕らのように知見がない方が、かえって面白いことができるかもと考えた」と語る。

WEFのメンバーには、グーグルに人型ロボットを売却したことでも知られる、ソフトウェア開発会社フラクタの加藤崇氏らもいる。エモーショナルな話だけでなく、背景に技術があることがWEFの大きな強みなのだ。
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文=伊藤みさき 写真=藤井さおり、インタビュー・編集=谷本有香

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