そんな中、そのコンセプトに合致する、地域住民を巻き込む形で興味深いプロジェクトを成功させた団体がある。ゲーミフィケーションの力によって、人々を巻き込み、渋谷区にある1万個のマンホールの劣化状況をわずか3日で調査したという先進的なケースを生み出したNPO、ホール・アース・ファウンデーションの森山大器氏に、新しい経済の形のヒントを探るべく、話を聞いた。
わずか3日で1万個のマンホール調査を完了した「市民の力」
2021年8月。日本列島に台風が上陸し大雨となったその裏で、ホール・アース・ファウンデーション(以下、WEF)はあるイベントを開催していた。
そのイベントとは、渋谷区にあるマンホール約1万個の情報を市民の協力によって収集するというもの。日本鋳鉄管と共同で開発する「鉄とコンクリートの守り人」というゲームアプリを用いて、マンホールの蓋の写真を市民に撮影、投稿してもらうという内容だ。
マンホールは劣化すると、事故の原因になりうる。しかし、いつ設置され、どのくらい劣化が進んでいるかという情報は自治体さえ把握するのが難しい。このようなインフラの管理はコストがかかり、非効率とされている。そこで、WEFはゲーム性を取り入れて市民の力で収集しようと考えた。
WEFのCEOである森山氏は、開催日当日、「台風が直撃したのでなかなか集まらないだろうと思った」と振り返る。しかし、いざ蓋を開けてみると、初日に78%回収を達成。3日で1万個ある全てのマンホール情報が回収された。
社会課題の解決に、より市民が主体的に関わる形で産業の革新を進めたい──。WEFが思い描く社会のあり方に大きく近づく結果となった。
情報収集アプリ「鉄とコンクリートの守り人」
渋谷表彰式
デザインスクールでの原体験が、新しい常識を生み出すきっかけに
森山氏のキャリアを紐解くと、いくつかのターニングポイントがある。そのひとつが、シカゴにあるIITインスティチュート・オブ・デザインでのデザイン留学だ。
森山氏はここで、ビジネスバックグラウンドの人とデザインバックグラウンドの人が対立する光景を何度も目の当たりにした。同じゴールを目指していても、そこに至る道筋が異なるためにぶつかってしまう。しかし、同時に「異なるタイプの人が繋がることで、新しいものが生まれる」という原体験も得た。
今回のインフラ事業に置き換えてみると、インフラ事業者や自治体と一般市民とでは、ほとんど接点がない。自治体のコスト削減努力には限界があり、結果としてそのコストを市民に転嫁せざるをえないのが現状だ。