オフィスビルや商業ビルの開発・賃貸にとどまらず、保育園や幼児教室を集めた教育特化型ビル「こどもでぱーと(仮称)」や、最短3カ月からの賃貸借契約が可能なオフィスサービス「Bizflex」など、従来の枠組みを超えた事業を次々に展開するヒューリック。アイデアを生むためのひけつを問うと、代表取締役会長の西浦三郎はこう煙に巻いた。
コロナ禍でも業績は好調だ。2020年12月期は営業利益・経常利益・当期純利益ともに過去最高益を更新。訪日客がいなくなってホテル事業の営業利益は75億円の減益となったが、ポートフォリオ再構築に伴う不動産売却益が前年比で189億円増えてカバーした。
ただ、リモートワークの浸透でオフィス需要は減退が予想される。主力のオフィス賃貸にこれから影響が出るのではないか。記者の質問を、西浦は一笑に付した。
「飲食関係は一部解約が出ましたよ。しかし、オフィスはほとんど影響ない。そもそもオフィス需要は労働人口減少の影響が大きいんです。この先10年で労働人口は800万人減る。実際は定年延長があるから600万人程度でしょう。これはもう織り込み済み。15年前、弊社の賃料事業でオフィスのシェアは85%でしたが、いまは60%まで下げた。10年後には50%まで落とす計画です」
オフィス賃貸のかわりに力を入れてきたのが、3Kと名づけた「高齢者・健康」「環境」「観光」事業だ。高齢者・健康事業では、老人ホームを展開。1棟の規模は大きくないが、部屋数ではアジアでトップクラスになった。環境事業では太陽光発電のほか、複数の小水力発電所を開発中。ホテルが苦戦している観光事業もインバウンド再開に向けて準備を整えている。
さらに4つ目のKとして、前述のこどもでぱーとに代表される「こども教育」事業を推進している。ビジネスモデルの転換に向けて、新しい事業企画が尽きる様子はない。
西浦はみずほ銀行出身だ。副頭取を務めた後の06年、同行の支店ビルなどを管理していた日本橋興業(現ヒューリック)の社長に就任した。銀行出身者に、新規事業に野心的に挑戦するイメージはない。挑戦するメンタリティは、いったいどこで身につけたものなのか。