「完全に匿名」で地球に優しい暗号通貨、Zcash創始者が掲げる理念

Yuichiro Chino / Getty Images

暗号通貨Zcash(ジーキャッシュ)の知名度は、ビットコインと比べるとはるかに低いのが実情だ。しかし、Zcashの創始者であるズーコ・ウィルコックス(Zooko Wilcox)は、ビットコインの掲示板に早くから参加し、ビットコインの生みの親のサトシ・ナカモトと頻繁に連絡を取り合っていたことで知られている。

実際、彼はビットコインに関する最初のブログ記事を執筆し、ナカモトはその記事をオリジナルのBitcoin.orgウェブサイトにリンクしていた。つまり暗号通貨分野で、ウィルコックスは究極のお墨付きを得た人物と言えるのだ。

しかし、先日のフォーブスの取材で、ウィルコックスは、ビットコインが完全なプロジェクトには程遠いものだと明言した。まず最初に言えるのは、ビットコインのブロックチェーンの匿名性が、そもそもナカモトたちが最初に望んだほど完璧なものではないことだ。

ビットコインが開発過程にあった2010年当時、ナカモトらは「zk-SNARK(ゼットケー・スナーク)」と呼ばれる匿名化技術をブロックチェーンに組み込もうとしていた。ZKは、ゼロ知識証明(Zero Knowledge)を意味し、SNARKはSuccinct Non-Interactive Argument of Knowledgeを短縮したものだ。この技術を導入することで、高いセキュリティを保ちつつ、送金者や受取人、送金額などの情報を外部から確認不可能にできる。

しかし、ナカモトが開発から手を引いた2011年当時の技術では、ビットコインの処理スピードを落とさずに、zk-SNARKをブロックチェーンに導入することは不可能だった。

ウィルコックスは2012年に、zk-SNARKをビットコインに統合すべきだと提案したが、中核となる開発者たちは、まず他のブロックチェーンでその技術を検証すべきだと主張したという。そして、その2年後にウィルコックスは自身が開発した暗号通貨Zcashにzk-SNARKを組み込み、ビットコインよりも高度なセキュリティを実現した。

もう一つのビットコインの欠点は、環境への負荷の問題だが、ナカモト自身もこの件に気づいていたのは明らかだという。ビットコインのマイニング(採掘)は、膨大な電力消費を引き起こし、環境破壊につながることが広く懸念されている。

「プルーフ・オブ・ワーク」の限界


ウィルコックスは、この問題に関しても、ビットコインより一歩進んだ仕組みを導入しようとしている。彼が開発したZcashは、これまでビットコインと同じ「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」というコンセンサスメカニズムを採用していたが、今後は電力消費が少なく環境に優しい「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」に移行しようとしている。
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編集=上田裕資

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