登録制度がもたらす「安心感」
機内医療体制を拡充することで乗客が安心して空の旅を楽しめるよう導入された医師登録制度だが、登録医師の存在は客室乗務員にも安心感をもたらしている。
何かしらの事情で協力要請を辞退する場合もあるとはいえ、あらかじめ医師であることを登録しているということは基本的に有事には協力する意志があるということだ。さらに登録時には専門分野などについても登録をする。「登録医師である○○科の△△先生が搭乗している」と事前に把握できることは、客室乗務員にとって心強いのである。
ANAでは、「ANA Doctor on board」の登録医師が痙攣、てんかん、糖尿病などの症状が重い傷病者に対して迅速に対応したことで、地上の医療体制に無事に引き継げたといった事案が起きているという。また、機内搭載の医薬医療品について積極的な意見を述べてくれる医師などもいて、医療対応だけにとどまらない成果も出ているそうだ。
登録制度がますます広がるためには
医師登録制度の導入から約5年が経過し、取り組みは成果を挙げつつある。JALでは、制度を開始した2016年度はわずか1件だった「JAL DOCTOR登録制度」登録医師の医療対応が、翌17年度には4件、18年度には11件、19年度には10件、20年度はコロナ禍ながら3件となった。
しかし、この制度に登録する医師をより一層増やして大きな成果を挙げていくためには、問題がいくつもある。
現在の医師は専門分野が細分化されており、自分の専門分野以外の患者を診ることに不安を抱く医師は少なくない。また、たとえ専門分野であっても、これまでの医療記録などがない初見の状態で、限られた医療器具を使って、ほかの医師や医療職や看護師の助けなしに処置をしなくてはならないというのはかなりハードルが高いのだ。
しかも、処置をした結果いかんによっては、法的責任を問われたり損害賠償を請求されたりする恐れはある。
ANAもJALも、機内での医療行為が原因で、医療行為を受けた乗客に対する損害賠償責任が生じた場合には、故意または重過失でなければ「ANAが責任をもって対応(ANA)」「当社が付保する損害賠償責任保険を適用(JAL)」としているが、どこまでが重過失かというのは判断が難しい。
医師登録やドクターコールに手を挙げることに躊躇してしまうという医師は少なくない。空の旅をより安全で安心なものにするために、法整備などが今後進むことを願いたい。