ビジネス

2021.09.01

ビジョナル x マネーフォワード 2精鋭経営者の「失敗に学ぶ力」「問いを立てる力」

『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』(日経BP刊)、『突き抜けるまで問い続けろ──巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡』(ダイヤモンド社刊)


南:もう一つ、「Visional Way」を社内で浸透させていくことに、みんなで力を入れてきました。どんなに素敵な言葉を定めても、それらの言葉が、社員一人ひとりに腹落ちして理解されていなければ、意味がありません。

そのために、「Visional Way」は可能な限りわかりやすく、みんなが普段から自然と使っている言葉でつくることを意識しました。だからこそ、日常会話のみならず、朝礼、半期のキックオフミーティング、社員表彰式など、多くの社員が集まる場でも自然と使われてきました。人事評価制度にも、その要素が組み込まれ、バリューに沿った行動が評価に直結するようにしています。

自身の経験上、理念やバリューが、ただ響きのよい「標語」に終わってはダメだと思います。ある日「みんなで使おう」って言っても、誰も使いません。本当に理念やバリューが浸透している会社は、定められた言葉が社員の間にしっかり根付いている。社員の口から自然と口をついて出るくらいシンプルな言葉を、全ての会社にぜひ大切にしてもらいたいですね。

辻:本質的な価値観の共有はして、決まりごとはあまり作らない。多くのスタートアップはこれを目指していますよね。決まりごとが多いと、人間の可能性を狭めてしまいかねませんから。本質的な価値観を共有してルールを最低限にすることが人の潜在能力を引き出すことにつながると思います。

僕は基本、性善説で経営したいので、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「カルチャー」を定めて、最低限大事にする考え方を一致させておけばいいと思っています。細かいルールをつくっても仕方がないと。経験的にも、価値観さえ一致していれば、物事は結構うまく進みます。

そのためには、南さんが言っていたように、価値観をシンプルにして覚えられるようにすることは大事ですよね。覚えて口にしないと、やっぱり浸透しないので。

南:そうですね。組織が一定規模に成長すると、必然的に階層ができて、そうなると組織内でどうコミュニケーションをスムーズにしていくかがとても大事になります。ここでいうミッションやバリューとは、組織の礎になる言葉ですからね。

名経営者がみな、「言葉」を大事にする理由


南:言葉の大切さについては、楽天イーグルス時代に多くを学ばせてもらいました。書籍でも触れましたが、イーグルス時代には、三木谷さん(三木谷 浩史・楽天グループ代表)、島田さん(島田 亨・USEN-NEXT副社長)、小澤さん(小澤 隆生・ヤフーCOO)という凄まじい力のある起業家のもとで、日々経営や事業づくりとは何かを叩き込まれました。特に、三木谷さんと島田さんには、経営における言葉の大切さを学びました。

辻:三木谷さんと島田さん……。やっぱり言葉へのこだわりは強かったですか?

南:例えば、楽天の「成功のコンセプト」(注:三木谷氏が自らの経営哲学をまとめた理論で、楽天社内の行動規範の一部になっている)においては、楽天社員はみんな暗記していますよ。「仮説→実行→検証→仕組化」「常に改善、常に前進」「スピード!!スピード!!スピード!!」。僕自身、退職してからもう十何年経っていますけど、未だに覚えています。そのくらい頭に刷り込まれていますし、きっと行動にも表れていると思います。こうした言葉を社員に浸透させる仕組みは、楽天という会社の強さの1つでしょうね。

辻さんが言う、「最低限一致させておく決まりごと」にも似ていると思います。おそらく、島田さんも、言葉を大切にするリクルートや、創業したインテリジェンスなどで働いてきた経験があったからこそ、自信をもってミッションの重要性を行動で表現してきたのだと思います。島田さんから教わったことは、ビジョナルでも大切にしてきましたし、言葉には本当に神が宿っていると思います。
次ページ > 「とにかく信頼だけは裏切るな」

文=蛯谷敏

ForbesBrandVoice

人気記事