筆者は現地滞在中、毎回街を歩き回った後に足裏マッサージを利用する。お気に入りはオンヌット駅近くの店で、リクライニングチェアに座ったまま寝落ちしてしまうことがよくある。現地で会社を経営する友人の日本人男性は「パンデミック前は多い時で週に3回通っていた。ローカルの人たちもよくマッサージ店を利用している」と話す。マッサージ文化はタイにしっかり根付いているようだ。
ジャカルタから空路でバンコクに到着した日、極度の疲れからマッサージを受けたくなった。グーグルマップで検索すると、ホテルのすぐ近くにマッサージ店がある。名前は「パーセプション・ブラインド・マッサージ」。店舗説明を読む限り、どうやら目が不自由な人がマッサージしてくれるようだ。
パーセプション・ブラインド・マッサージの入口
幅の狭い階段を上ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。白と黒を基調としたミニマルな内装で、洗練された印象を受ける。薄暗いマッサージスペースに通されると、サングラスをかけた男性が登場。手を合わせながら笑みを浮かべてお辞儀した。
彼の腕は確かだった。腰が痛いので何とかしてほしいと伝えると、ゆっくりとした動きで、的確にツボを深く押していく。終了後はすっかり体が軽くなった。料金は相場よりやや高く感じられたが、高いレベルのサービスに満足度は高かった。
パーセプション・ブラインド・マッサージのウェブサイトより
パーセプション・ブラインド・マッサージのウェブサイトによると、サービスは視覚障害のあるセラピストに雇用を提供することなどを目的として、2014年12月に立ち上げられた。現在バンコクに2店舗、チェンマイに1店舗を展開。「今後も続々とオープン予定」としている。
また「誰もが才能を持っていると信じており、それを発揮できる機会を提供している」「どんな状況であっても一人ひとりを平等に大切にする」と店のスタンスを説明。目が不自由なセラピストは、他の人にはない触覚をフルに活用できるため、マッサージセラピーの才能を発揮できるという。確かに、マッサージを受けてみて、セラピストとしての才能を感じた。
店で受け取ったショップカードには、店舗情報がテキストと点字が印刷されていた。ダークトーンのインテリアデザインは、「目が見えなくても感じることができる」というセラピストたちにインスパイアされたものだという。一貫したコンセプトとデザインは、居心地の良さを生む。加えて、セラピストの才能を生かせる場を生み出す取り組みは、応援したくなる。
パーセプション・ブラインド・マッサージの戦略はブランディング視点でも興味深い。バンコクのマッサージ業界は、供給過多に見える。シンプルに戦うだけでは、価格競争に巻き込まれるだろう。しかし、他にはない応援したくなるようなコンセプトと高品質のサービスで、付加価値を生んでいる。競合の存在しない独自のポジショニングによって、高めの価格設定でも集客に成功しているのだ。
ポジショニングの重要性を体現しているパーセプション・ブラインド・マッサージ。蒸し暑いバンコクの夜だったが、爽やかな気持ちで店を後にした。
連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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