「レスポンシブルツーリズム」とは
今回の騒動を引き起こした夫婦は、言い訳にはならないことを認めながら、「(絶滅危惧種に触ってはいけないという)注意書きは何もなかった。私たちは何も知らなかった」と述べている。
アメリカでは州ごとに異なる法律が存在し、確かに観光客が旅先のあらゆる法律やルールをすべて把握することは難しいかもしれない。だが、だからと言って観光客が現地のルールを守らずに行動することが許されるわけではない。
そこで近年注目を集めるのが、観光客が自身の行動に責任を持ち、旅行先の地域の環境を守ろうとする「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」の考えだ。環境への影響を考慮する「サステナブルツーリズム」という考えがあるが、レスポンシブル・ツーリズムでは旅行者自身が主体性をもち、環境に配慮した行動を呼びかけるという点で異なる。
世界で注目されるこのレスポンシブル・ツーリズムをいち早く呼びかけ始めたのが、ハワイだ。コバルトブルーに輝く海や富士山より高い山も存在するなど、ハワイは豊かな自然があふれる場所だが、年間1000万人の観光客が訪れる世界屈指のリゾート地でもあり、観光客による環境への影響は無視できるものではない。そこでハワイ州観光局は、2021年4月よりレスポンシブル・ツーリズムを大々的に呼びかけるキャンペーンを始めた。
現地では小売店でのビニール袋が有料化されており、2021年1月からはサンゴ礁に有害とされる成分を含む日焼け止めの販売と使用が禁止され、2022年1月からはプラスチック製の食品用容器の使用が禁止される。ハワイ州観光局では、レスポンシブル・ツーリズムの一環で観光客ができることとして、ハワイアンモンクシールやウミガメなどの野生生物に近づかないことや、環境に優しい日焼け止めを使用すること、マイバッグやマイストローを持参することなどを挙げている。
新しい観光ビジネスが求められる背景に
レスポンシブル・ツーリズムの考えが生まれた背景には、人気観光地で起きている「オーバーツーリズム」と、新型コロナの存在がある。世界的に知られる観光地には、多くの観光客が押し寄せ、それによって環境悪化が引き起こされるオーバーツーリズムが問題となっている。SDGsの取り組みが世界各国で進んでいることも後押しとなり、これまでとは別の環境へのアプローチが求められているようだ。
おまけに、これからの観光ビジネスでは、新型コロナの感染リスクを抑えることも課題として持ち上がっている。そのため、感染リスクを抑えながら、地域の環境を守る観光地づくりがますます求められるようになってきているのだ。
例えば、アメリカのほとんどの州がマスク着用の規制を撤廃するなか、ハワイでは現在でも屋内でのマスク着用義務が継続されている。そのような現地のルールを守ることも、レスポンシブル・ツーリズムの行動のひとつになるだろう。
地域の環境を守るためには、現地に暮らす人の努力だけでなく、そこを訪れる観光客の責任ある行動も必要だ。このようなレスポンシブル・ツーリズムの考えについて、フランスや沖縄など、議論を進める国や地域が増えつつある。ハワイをモデルケースに、「責任ある」新しい旅のスタイルが今後のスタンダードとなっていくのではないだろうか。